artscapeレビュー

フランシス・ベーコン展

2013年04月15日号

会期:2013/03/08~2013/05/026

東京国立近代美術館[東京都]

ベーコンといえば10代のころ「ファブリ世界名画集」で初めて知って衝撃を受けたものだが、その後ミニマル・コンセプチュアルに突き進むモダニズム路線を追いかけてしまい、ベーコンは忘却の彼方に置き忘れてきた。近ごろ再びベーコンの名が聞こえてくるようになったのは、オークションで作品が高額で落札されたとか、夜の街をさまよう同性愛者だったとか、どうでもいいような話ばかり。まあそういう話のほうがおもしろいのは事実だが。出品は第2次大戦直後から最晩年まで、半世紀近くにおよぶ33点。ほぼ例外なくどれも歪んだ身体や顔を描いた人間像だ。画業が半世紀近くにおよぶのに、その間イギリスも世界情勢もアートも大きく変わったはずなのに、モチーフもスタイルもほとんど変化がない。変化があったとすれば3幅対が増え、筆触が穏やかになったことくらい。ブレがないというか、頑固なまでにモダニズムに背を向けた画家だったようだ。まあ「現代美術」より「人間」に興味があったんでしょうね。ところで、ベーコンはしばしばマイブリッジをはじめとする写真を参照し、その写真の視覚特性や動きを強調するため縦方向の筆触でモデルをぼかすのだが、これがゲルハルト・リヒターの手法とよく似ている。でもベーコンは主題を際立たせるために筆触を用いたけれど、リヒターは筆触の妙にとりつかれて主題を変えていったようにも見える。同様に、ベーコンもリヒターも絵の前のガラスに興味を寄せるが、リヒターはガラスそのものを絵画として作品化したのに、ベーコンはあくまで絵を見るためのガラスでしかなかった。ここがモダニズムの分かれ目のような気がする。

2013/03/07(木)(村田真)

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