artscapeレビュー
ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー 二人の写真家
2013年04月15日号
会期:2013/01/26~2013/03/24
横浜美術館[神奈川県]
今年はロバート・キャパの生誕100年にあたる。また、彼の代表作と見なされていた、スペイン市民戦争の最中に撮影された「崩れ落ちる兵士」(1936年)が、キャパではなく同行していたゲルダ・タローの写真ではないかという説が沢木耕太郎によって打ち出され、大きな話題を集めている(『キャパの十字架』文藝春秋)。本展も、キャパを巡るそういった関心の高まりを反映する企画と言えるのではないだろうか。
今回の展示で注目されるのは、これまでキャパの恋人、あるいはパートナーとして脇役的な扱いを受けていたゲルダ・タローの写真80点以上が、初めてきちんとした形で公開されたということだろう。ゲルダはのちにロバート・キャパと名のるようになるハンガリー出身のエンドレ・フリードマンとパリで出会って、彼から写真を学び、スペイン市民戦争でも行動をともにすることが多かった。しかも、1937年には戦場で27歳という若さで事故死しており、写真家として本格的に活動したのはわずか2年あまりだった。それでも、同時期に撮影されたキャパの写真と比較すると、ダイナミックな画面構成、死者などを含む生々しい被写体に肉迫する姿勢など、彼女自身の写真のスタイルを確立しかけていたことがわかる。また、「崩れ落ちる兵士」を含むキャパの初期の戦争写真が、ほとんどゲルダとの合作と言うべきものであったことも明確に見えてきた。ゲルダ+フリードマン=キャパという図式を、決してネガティブに捉える必要はないのではないだろうか。
ゲルダの死後のキャパの仕事は、ほぼ過不足なく本展に集成されており、第二次世界大戦中の名作だけでなく、むしろ戦後の「失業した戦争写真家」時代のリラックスした写真に、被写体となる人間たちの表情や身振りを「物語」に埋め込んでいく彼の真骨頂を見ることができる。決して「うまい」写真ではないが、実に味わい深い作品群だ。
2013/03/06(水)(飯沢耕太郎)