artscapeレビュー

森山大道「写真よさようなら」

2013年04月15日号

会期:2013/02/16~2013/03/16

Taka Ishii Gallery[東京都]

ロンドン、テート・モダンでのウィリアム・クラインとの二人展も無事終わり、森山大道の仕事はさらに大きな広がりを持ち始めている。今回のTaka Ishii Galleryでの個展では、もはや伝説といってよい1972年の写真集『写真よさようなら』(写真評論社)の収録作から10点を展示していた。
『写真よさようなら』は、ある意味で森山の転機となった写真集で、全編「アレ・ブレ・ボケ」の極致と言うべき写真群で構成され、ラディカルな実験意識に貫かれていた(巻末に中平卓馬との対談「8月2日 山の上ホテル」をおさめる)。ところが、この写真集へのネガティブな反応が引き金となって、森山は長期にわたる「大スランプ」に陥ってしまう。1981年に『写真時代』に連載した「光と影」のシリーズで再起するまで、10年近くの苦闘が必要だった。今回あらためて見ても、苛立たしげな身振りで事物の表層を「擦過」していく森山の視線のあり方が、緊張感を孕んで極限近くまで達しつつあったことがよくわかる。唇、ジーンズ、自動車、印刷物の網目など、森山がそれ以後もずっと執着し続ける被写体が、確信犯的に選びとられているのも興味深い。
今回、もうひとつ注目すべきなのは、展示されているプリントが印画紙に引き伸ばされているのではなく、シルクスクリーンで刷られていることだ。森山は1970年代からシルクスクリーンの質感と表現力に着目し、実際に作品も発表してきた。印刷の網点でも印画紙の諧調でもない、シルクスクリーンに特有のぬめりを帯びた灰色~黒のトーンは、とても面白い効果をもたらしている。あの『写真よさようなら』が、新たな生命を得て甦ったと言えそうだ。

2013/03/01(金)(飯沢耕太郎)

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