2021年11月15日号
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artscapeレビュー

喜多村みか「Einmal ist Keinmal|my small fib」

2013年04月15日号

会期:2013/03/20~2013/03/31

THERME GALLERY[東京都]

喜多村みかは渡邊有紀と互いにポートレートを撮影し合った「TWO SIGHT PAST」で2006年に写真新世紀優秀賞を受賞した。その後、自分の写真の世界を構築する作業を、じわじわと水が地表に沁み出してくるように続けて、今回写真集『Einmal ist Keinmal』(THERME Books)の刊行につなげた。本展はそれを契機として開催されたもので、1階スペースに大小のカラー・プリントをちりばめた「Einmal ist Keinmal」が、2階スペースにモノクロームの「my small fib」のシリーズが展示されていた。
写真集の表題となっている「Einmal ist Keinmal」というのはドイツのことわざで「一度は数のうちに入らない。ただ一度なら全然ないのと同じこと」という意味だ。つまり「些細なもの、取るに足らない事柄」ということなのだが、たしかに彼女の写真の中に写っているものには、壁の傷とか、光のプールとか、ぼんやりした影とか、鉢植えの植物とか、たまたま出会った人物とか、日常のなかで見出される「取るに足らない事柄」が多い。だがそれらの小さな「しるし」が、不思議な輝きを帯びて目に飛び込んでくる所に、彼女の写真術の秘密があるのではないかと思う。「数のうちに入らない」ことが、「たった一度しか起らなかった」稀有な出来事に転化していく。それを見届けたということの歓びが、どちらかと言えば地味な写真が並ぶ展示からも確実に伝わってきた。
写真集も写真の構成、レイアウト、デザインのレベルが高く、素晴らしい出来栄えだ(装丁は熊谷篤史)。カラー作品→モノクローム作品→カラー作品という転調がうまく効いていて、読者の気持ちをそらすことなく、最後まで運んでいってくれる。

2013/03/22(金)(飯沢耕太郎)

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