artscapeレビュー

フランシス・ベーコン展

2013年04月15日号

会期:2013/03/08~2013/05/26

東京国立近代美術館[東京都]

東京国立近代美術館のベーコン展は、まさに実物を見るべき絵だった。多くの絵画が共通したサイズやプロポーション、あるいは額縁をもち、また作家の意向によって鑑賞者と距離をとるべくガラスをはめているからだ。こうした感覚は書籍やコンピュータではわからない。ベーコンの作品は、一点透視の空間とアクソノメトリックの混在(彼はインテリアデザインの仕事もしていた)、違う画法の共存、異なる身体の接合が指摘できるだろう。独特の色味のなかで、異世界のレイヤーが重なり、ときには衝突する。またデッサンが巧くないがゆえの写真のコラージュ的な技法が、平坦なキャンバスに異なる空間を出現させる。今回、土方巽とウイリアム・フォーサイスのパフォーマンス映像が参考作品としても紹介されていた。前者はどろどろとした情念を身体化し、後者はペーター・ヴェルツと組んで、ベーコンの手法を理知的に分析し、絶筆の痕跡をトレースするもの。なお、ヴェルツ+フォーサイスは、サミュエル・ベケットをモチーフにした作品で、あいちトリエンナーレに参加する。ところで、ミラン・クンデラのベーコン論は、「乱暴な手つき」で埋もれたモデルの自我をむきだしにすると指摘しつつ(漫画の『ホムンクルス』を思い出した)、彼の空想画廊の中でベーコンとベケットは一組のカップルになっていたという。いずれの人物もアイルランド生まれであり、ともにヴェルツ+フォーサイスが参照しているのは興味深い。

2013/03/31(日)(五十嵐太郎)

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