artscapeレビュー
2011年06月15日号のレビュー/プレビュー
西川茂 展「in between」
会期:2011/05/10~2011/05/29
neutron kyoto[京都府]
neutron kyotoでの最後の展覧会となった西川茂展。40cm×40cmの画面が縦横に並列する壁面は、それぞれに色彩が異なり、遠目にもそれらの構成によるグラデーションが美しいのだが、至近距離で見ると一枚ずつにトンボやヘリコプターが描かれているのが確認できる。これは《world》と題されたシリーズで、世界の国と地域の数、203を目指して描き続けている空なのだという。会場の奥には、画面の上下に描かれた異なる風景がひとつの空でつながっているというイメージの作品。過去の時間といま、離れた場所と場所をつなぎ、もっと遠い世界やまだ体験していない時間へと連想を掻き立てる広大無辺の空は、それらの境界についてもあれこれと思いを巡らせるものであり、これでひとつの時間の区切りをつけるneutronの活動にも重なるようだった。
2011/05/15(日)(酒井千穂)
ムラギしマナヴ個展「AFRO BLUE──シギラム教授のおかしな世界II」
会期:2011/05/11~2011/05/15
トランスポップギャラリー[京都府]
昨年の個展には、アフリカのお面や人形など、プリミティブで呪術的なイメージのオブジェや段ボール製の作品がごちゃごちゃと展示されていていた。今展は「架空の民俗学者のコレクション」という設定で構成されたその個展の第二回目。個人のコレクションという物語自体も愉快なのだが、椅子や欠けた陶器など、生活廃品を素材に用いた作品はどれもユーモラスな表情で、チャーミングな毒っ気が感じられ、価格も安いのでつい欲しくなってしまう。壁にたくさん貼られていた《ナラの人》というシリーズのドローイングは100円。どこかで見たり聞いたりしたことのあるイメージを連想させるタイトルのセンスにも感心する。次回の発表の展開も楽しみだ。
2011/05/15(日)(酒井千穂)
松本秋則 展「Sound Scenes」
会期:2011/05/07~2011/05/16
ストライプハウスギャラリー[東京都]
ギャラリーには竹と紙によるたくさんのモビールが吊るされ、心地よい音を立てながらゆらゆら揺れている。と思ったら、音を出しているのはモビールではなく、これも竹でつくった音の出る装置。コンピュータなどを使わずタイマーで制御しているところに手づくり感があふれる。今回は窓側の仮設壁が除かれ、テラスに出られるようになっていて、その手すりにも釣り竿のようにしなる竿の先に風で音の鳴る装置をつけていた。六本木の喧噪から一歩入ったところに出現したオアシス。
2011/05/16(月)(村田真)
森山大道「Record No.19 -Toscana-」
会期:2011/04/22~2011/05/29
BLD GALLERY[東京都]
森山大道の『記録』のシリーズがいつのまにか19冊目になっていることにちょっと驚いた。『記録』はその時々に偶発的に彼の前にあらわれてくる事象を、拾い集めるようにして撮影していくスナップショットのシリーズで、1972~73年に1~5号を刊行し、その後、長い間をおいて2006年の第6号から再び定期的に刊行されるようになった。ほぼ季刊のペースで既に10冊以上が刊行されており、最新刊が2011年4月に出た第19号である。その出版にあわせて、東京・銀座のBLD GALLERYでは個展も開催された。
森山にとってこのような小出版物は、自分の立ち位置を確認するとともに、大きな仕事への力を蓄えるウォーミングアップの意味を兼ねているのだろう。だがそれ以上に、自分の好きなものをさっと形にしていくこういう作業にこそ、このたぐいまれな嗅覚と動体視力を備えた天性のスナップシューターの力量が、はっきりとあらわれてくるともいえる。今回の「Toscana」のシリーズも、リラックスした雰囲気のなかに、締めるべきところはきりりと締めた見事な出来栄えである。
2010年9月、イタリアのモデナで開催された400点以上の自選作品による大回顧展のときに、モデナと「半日余りカメラを手に、あちこちの街区を撮り歩いた」フィレンツェで撮影したスナップを集成したものだが、街を覆っている装飾的な表層(ポスター、看板、仮面、建築物の外壁など)の処理が実に颯爽としていて決まっている。森山の写真のグラフィカルな魅力がよく発揮されているシリーズといえるだろう。そんな街並を縫うように、これまた颯爽と闊歩しているセクシーな「オネエサンたち」、そのかっこよさに口笛の一つも吹きたくなってくる。
2011/05/18(水)(飯沢耕太郎)
安齊重男 写真展「絵画試行」
会期:2011/05/16~2011/05/28
ギャラリー現[東京都]
1978~79年、ニューヨーク滞在時に撮影した建物の壁の写真。原色に塗り分けられたカラフルな壁もあれば、文字の書かれた壁、ペンキの飛び散った壁、崩れかけた壁もある。70年代末のニューヨークといえばちょうどグラフィティが盛んになり始めた時期だが、ここにはほとんど写っていない。あの好奇心旺盛な安齊さんがなぜグラフィティを写さなかったのかというと、写したら「グラフィティの写真」になって「壁」じゃなくなっちゃうから。別の言い方をすれば、多くのグラフィティライターを惹きつけたニューヨークの壁そのものに安齊さんもまた魅せられ、ラクガキするかわりに写真に撮ったというわけだ。ここに単なるドキュメンタリストでは終わらない表現者としての安齊さんがいる。
2011/05/18(水)(村田真)