artscapeレビュー
2011年06月15日号のレビュー/プレビュー
リヒターとトゥオンブリー「新作エディション」
会期:2011/05/07~2011/06/04
ワコウ・ワークス・オブ・アート[東京都]
リヒターとトゥオンブリーの豪華2人展。小品だけどね。トゥオンブリーの黄色っぽいピンボケ写真《チューリップ》は各240万円、リヒターのマーブリング絵画《アブダラ》は各360万円。小品だけどね。
2011/05/20(金)(村田真)
篠原愛 展「ゆりかごから墓場まで」
会期:2011/05/14~2011/06/11
ギャラリーモモ 六本木[東京都]
100号大の正方形のキャンヴァス2枚を横に組んだ大型画面に、ぼろぼろに腐った恐竜とセーラー服の女子生徒が描かれている。それまで金魚と少女の組み合わせだったのが、いきなり恐竜、それも匂い立つような腐敗した恐竜だ。この腐り具合がまたなにを見て描いたんだろうと思うほどよく描けている。一見エルンストが多用したようなデカルコマニーの技法みたいだが、篠原は偶然性にゆだねることなく手ですべて描いているようだ。完成まで1年半かかったというが、そんなに腐った肉を描き続けて気はおかしくならなかっただろうか、心配だ。
2011/05/20(金)(村田真)
吉田重信「臨在の海」
会期:2011/05/10~2011/05/22
立体ギャラリー射手座[京都府]
1969年のオープン以来、映像表現やパフォーマンス、ライブなども含め、枠にとらわれないさまざまな表現を行なうアーティストの発表の場として活動を続けてきた立体ギャラリー射手座。今展を最後に閉廊となった。この最後を飾ったのは東日本大震災で自らも被災した福島県いわき市在住の作家、吉田重信の個展。照明はなく、片隅にほのかに赤い光が見えるだけの暗い会場にペットボトルに挿した1,000本の白い菊が並んでいた。中には入れないがドアを開けると、爽やかでありながら濃厚な花の香りが押し寄せてくるように感じられる。入口の傍らには片方だけの小さな泥だらけの靴が外へ向かう足跡のように置いてあり、周りに砂が散らばっている。よく見ると会場にも砂が敷き詰められていたのだが、これらはいわき市から採取してきたものだという。圧倒的な菊の香りと目の前の静粛な光景に胸が詰まるような気持ちにもなっていく。しかし、この祈りに満ちた鎮魂の空間の清らかな気配は、過去をしのぶ追憶というだけでなく未来へのまなざしとして感受できるものでもあった。最終日にはニッポン画家の山本太郎が能舞を披露し、たくさんの人々が集った地下のギャラリー。素晴らしい時間をこれまでありがとう。
2011/05/20(金)、2011/05/22(日)(酒井千穂)
思想地図β vol.2 緊急出版 東日本大震災と思想の言葉シンポジウム「東日本大震災とこれからの思想」
会期:2011/05/21
朝に仙台駅で思想地図のメンバーを出迎え、彼らとともに市内の被災地をまわる。卸町のエリアは、津波が届かず、純粋な地震の被害によるもので、完全倒壊や部分破損の倉庫やオフィスなどが目につく。東浩紀は、見えるものをすべて読む習性のせいか、街の風景の「がんばろう東北」の文字があまりに多いことに驚いていた。多賀城や仙台港のエリアは一カ月半前に比べ、だいぶクルマが片付いている。蒲生の廃墟は門や塀だけが残り、ポンペイのような風景だった。まわりから見ると、唯一高台の中野小学校と荒浜小学校を訪れる。いずれも二階まで浸水し、体育館は避難場所として機能していない。構造は大丈夫だったが、人がいない街の学校になっている。
さて、思想地図のシンポジウムだが、東は福島の小学校で目撃した時間の断絶、瀬名秀明は被災地と東京の距離や情報過多への戸惑い、石垣のり子は非常時に刻々と変動したラジオの役割と状況、鈴木謙介は経済では計算できない失われた時間の流れなどについて話す。東は、今回の一連の出来事を記録し、海外でも読まれるために翻訳を出すという。終了後、せんだいスクール・オブ・デザインの『S-meme』2号の特集「文化被災」のために、東浩紀にインタビューを行なう。もともと作品の強度を失いながらも、コミュニケーションのネタとして盛り上がりを持続していたアニメを代表とするオタク・サブカルチャーが、3.11以降は厳しい状況になるだろうとの見解を示す。
2011/05/21(土)(五十嵐太郎)
映像作品上映会“MOVING”
会期:2011/05/20~2011/05/22
京都シネマ(第1会場)・アートフェア京都内507号室(第2会場)[京都府]
アートフェア京都に合わせて3日間行なわれた映像作品上映イベント。「京都で活動するアーティストと社会をつなぐ」というテーマで運営されているウェブサイト「&ART」と、京都を活動拠点とする映像作家の企画によるもので、かなもりゆうこ、トーチカ、林勇気、平川祐樹、松本力、水野勝規、宮永亮、村川拓也、八木良太の9組の短編作品が紹介された。一日に1度だけの上映会だったが、アートファンのみならず、さまざまな人が各作家や作品に興味を持ち、ひいてはアートへの関心をより深めることができる機会にしたいと、出品アーティスト3組とゲストによるアフタートークも毎日行なわれた。作品にまつわるエピソードやコンセプトについてもさることながら、来場者が料金を払って鑑賞する映画館での上映会は、見る側が空間的にも時間的にも“拘束”される分、美術館やギャラリーなどの展覧会場で発表するのとは異なる強い緊張感があるという作家自身の思いが語られたトークは興味深く、とても良い時間だった。今回の上映作品のなかには私にはいまいち理解できないものもあったのだが、さまざまな表現がバランスよく選ばれていて、全体に充実した内容であった。できれば第二回目、三回目と開催してほしい。
2011/05/21(土)(酒井千穂)