artscapeレビュー
2012年10月15日号のレビュー/プレビュー
非在の庭PvQ Part2「井浦崇+大島幸代 "water's edge"」
会期:2012/09/04~2012/09/09
アートスペース虹[京都府]
アートスペース虹で長年行なわれているシリーズの企画展「非在の庭」。今年は、Part1の二瓶晃展と、井浦崇と大島幸代によるPart2の二つの展覧会が開催された。Part1はあいにく見ることができず残念だったのだが、Part2の井浦と大島の個展にはまにあった。発表されたのは水辺の自然の移ろいやそこで見られるさまざまな〈かたち〉の変化をテーマにした音と映像を用いた三つの作品。そのインスタレーションのなかでも、チョークでドローイングを描いた黒板に日本庭園の池の様子を投影する作品は特に面白かった。まるで絵画のようなイメージの映像が黒板に映し出され、そして徐々に霞んでいくのだが、最後には目の前に白いチョークで塗りつぶされた黒板の面だけが現われてハッとする。作品自体が美しいのだが、見ることが視るという意識にするりと変わってしまう不思議にも驚く。Otograph(オトグラフ)というユニットで音楽活動も行なっている井浦と大島の独自の美的センスも発揮されている作品だった。
2012/09/09(日)(酒井千穂)
画家・ジェフ・クーンズ
会期:2012/06/20~2012/09/23
シルンクンストハーレ[フランクフルト(ドイツ)]
深川で画廊巡りをした翌日にフランクフルトでジェフ・クーンズを見られるなんて、便利な世の中になったもんだ。昼前に成田を出発し、時差の関係で午後にはフランクフルトに到着。駅前のホテルにチェックインして、さっそく旧市街のシルンクンストハーレへ。事前情報ではシルンで個展ということだったが、行ってみたらシルンは絵画のみ、そこから20分ほど歩いたマイン川沿いのリービークハウスでは彫刻を展示しているという。ともあれ見たかったのは絵画。全長100メートルはありそうな細長いギャラリーに、広告をそのまま拡大したような80年代の初期作品から、元妻チチョリーナとのセックスを撮った《メイド・イン・ヘヴン》シリーズ、お菓子やランジェリー、玩具、宝飾品などのモチーフにマンガやアニメのキャラクターをコラージュした巨大絵画まで、約40点を展示。いずれもキャンヴァス作品で、遠目には写真製版のシルクスクリーンに見えるが、初期と《メイド・イン・ヘヴン》を除きすべて手描きなので驚いた。もちろん本人が描いてるわけではないだろうけど、いちおう「ペインティング」にこだわっているらしい。というより高く売るための戦略かもしれないが。欲望をそそる成金好みのモチーフをリサーチし、それらのイメージを寄せ集めてハデな色彩でまとめ上げた俗悪な絵画ではあるが、ここまで徹底的にやればアッパレ!というほかない。
2012/09/09(日)(村田真)
彫刻家・ジェフ・クーンズ
会期:2012/06/20~2012/09/23
リービークハウス[フランクフルト(ドイツ)]
ヨーロッパは寒いと聞いていたが、フランクフルトは東京と同じくらい暑い。しかも飛行機のなかではほとんど寝てないので、彫刻はパスしてホテルに帰って寝ようかと思ったが、共通チケットなのでもったいないから炎天下を歩くことに。ようやくたどり着いたリービークハウスは、古代からバロックあたりまでの彫刻ばかりを集めた美術館。結論をさきにいうと、来てよかったー! 絵画もスゴかったけど、こっちのほうがもっとスゴイかも。なにがスゴイかって、常設の彫刻のあいだにジェフくんの彫刻を置いているのだ。中世の木彫りの宗教彫刻のとなりに金ピカのポパイ像が立っていたり、聖母子像の前にキッチュなブタの彫刻を置いてみたり、バロックの胸像に混じってジェフくんとチチョリーナが見つめ合う胸像があったり、クリスチャンではないぼくでさえ不謹慎を通り越して冒涜的とすら感じるくらいスゴイ。しかもそれが暴力的でなく、どの彫刻をどこに置いたら効果的かを周到に計算したうえでやっているのだ。さすがジェフ・クーンズ、おみそれしました。
2012/09/09(日)(村田真)
ドクメンタ13
会期:2012/06/09~2012/09/16
フリデリチアヌム美術館+ドクメンタハーレ+オットネウム+ノイエガレリー+カッセル中央駅[カッセル(ドイツ)]
フランクフルトからICE(特急)でカッセル・ヴィルヘルムスヘーエ駅へ。以前は旧市街に近いカッセル中央駅に着き、ドクメンタ会場まで歩いて行けたのに、いつからかICEがずっと手前のヴィルヘルムスヘーエ駅にしか止まらなくなったため不便になった。トラムに乗ってフリデリチアヌム美術館前のチケット売場に行くともう行列が。ドクメンタも最終週のため駆け込みが多いのだ。今回は会場が美術館を中心に中央駅や市内数カ所のビル、広大なカールスアウエ公園にも広がっているので3日間は必要だといわれていた。まずは美術館の1階奥の「脳」と呼ばれる部屋から。ここはドクメンタ13のエッセンスがつまっている核心部らしいのだが、行列ができて30分ほど待たされてようやく入室。まずは陶器が並んでいて面食らう。その陶器を描いたモランディの絵も展示され、作品全体が関連し合っているようでもある。あとはマン・レイとリー・ミラーの作品、戦災で破損した彫刻、エジプト革命の引き金となった映像、アウトサイダーアートみたいな作品も。どういうセレクションかと考えてしまうが、それだけに期待感も高まる。その左右に伸びる大きなギャラリーはほとんど空っぽで、次のギャラリーに移ろうとすると肌に風を感じる。この「そよ風」がライアン・ガンダーの作品。なんと贅沢な使い方。ほかに気になったものを挙げると(未知の作家はアルファベット表記)、70年代にアフガニスタンで織らせたアリギエロ・ボエッティの世界地図のタペストリー、戦前ナチスに抵抗したKorbinian Aignerが第1次大戦前から約半世紀にわたって描き続けた絵葉書大のリンゴの絵、アメリカの歪んだ日常風景を木彫したLlyn Foulkesのジオラマ的レリーフ(彼は奇妙な楽器の発明でも知られ、オープニングで演奏した)、昨年パレスティナに初めてピカソの絵が展示されたときの様子を撮ったKhaled Houraniの映像、アウシュヴィッツで虐殺されたユダヤ系ドイツ人Charlotte Salomonが潜伏中に描いた水彩画の一部、などなど。すぐ気づくのは、有名作家や人気作家が少ないこと(知ってるアーティストは全体の1割強しかいなかった)、名前は知っていても、モランディのように物故作家で、しかもモダンアートの主流から外れたアーティストが入ってること、戦争・戦災に関連した作品が多いこと、以上の結果、アートマーケットに乗りそうにない作品が多数を占めていること。この時点で今回のドクメンタがただならぬものであることを感じた。このあとドクメンタハーレ、オットネウム(自然史博物館)、ノイエガレリー、中央駅を訪問。西洋名画のコピーなどを壁いっぱいに展示したYan Leiの絵画インスタレーション、木の板をくり抜いて標本化する18世紀の方法を甦らせたマーク・ダイオンの「木の図書館」、1935-85年の『ライフ』誌から図版を切り抜いて時代順に並べたGeoffrey Farmerの「影絵人形」、駅の横の建物内を迷路のように仕立て上げたHaris Epaminonda and Daniel Gustav Cramerのインスタレーションなど。これらの会場はフリデリチアヌムほど凝縮してないし、謎めいてもいないが、それだけに楽しめる作品も少なからずあった。
2012/09/10(月)(村田真)
ドクメンタ13
会期:2012/06/09~2012/09/16
カッセル市街地[カッセル(ドイツ)]
今日は肌寒い小雨のなか、市街地に点在する作品を訪ね歩く。デパートの上階の空きフロアにスピーカーを置いて鼓動のようなリズムを響かせるCevdet Erekのサウンドインスタレーション、ハードカバーの本を開いて表紙と裏表紙をキャンヴァス代わりに絵を描いたPaul Chanの絵画、廃ビルに住み込み建具を使って建物内全体を模様替えするTheaster Gatesのインスタレーション、真っ暗な部屋から歌声が聞こえるので近寄ってみると生身の人間が歌ってるというティノ・セーガルのパフォーマンス、崖の下に掘られた防空壕のなかをヘルメット着用で歩かせるAman Mojadidiの体験型作品、サロンのような吹き抜けの部屋にアフガンの山々の絵を飾ったタシタ・ディーンの黒板絵など、意欲的で見ごたえのある作品が多い。感心したのは、作品の多くに「Commissioned by dOCUMETA13」と表示されていること。つまり既製の作品ではなく、今回のドクメンタのために委託制作されたオリジナルということだ。これは国際展なら当たり前と思うかもしれないが、世界中に国際展が林立するようになった昨今(とくに日本では)既製作品を持ってきて展示するだけの手抜きが少なくないのだ。また今回は、ドクメンタの成り立ちやフリデリチアヌム美術館の過去、カッセル市史などを参照した自己言及的な作品が少なからず見られたことも付け加えておきたい。ちなみに毎回ドクメンタはロゴを変えるが、今回はいつもと逆に頭文字が小文字であとは大文字になっている。勝手に解釈すれば、これまでのドクメンタとは正反対を向いているという意思表示か。いずれにせよ今回は意気込みが違う。
2012/09/11(火)(村田真)