artscapeレビュー

2012年10月15日号のレビュー/プレビュー

津田直「Storm Last Night/ Earth Rain House」

会期:2012/08/20~2012/09/25

CANON GALLERY S[東京都]

津田直の二つのシリーズのカップリング展示である。すでに赤々舎から写真集としても刊行されている「Storm Last Night」(2009~)では、アイルランドのディングル半島やアラン島などを、6×17センチというかなり横長のフォーマットで撮影している。2012年から撮影が開始された「Earth Rain House」では、スコットランド北方のオークニー諸島、シェトランド諸島、アウター・ヘブリディーズ諸島などを船や小型飛行機で回って撮影した。どちらも中心的な主題となっているのは、キリスト教伝来以前の先住民族たちが残した古代遺跡とその周辺の景観である。
津田直の写真を見ていつも感じるのは、そこに写っている風景があたかも彼によって呼び込まれているように見えるということだ。光や影、靄や霧、気流なども含めて、彼がこう撮ろう、こう撮りたいと思っている方向へと、風景が移ろいつつ形をとっていく。優れた写真家の仕事には、いつでも偶然が必然へと転化していくということがつきまとうのだが、津田の写真ではその頻度が異常に高い。今回の二つのシリーズに共通しているのは「古代人は何を思想したか」というという問いかけだが、まぎれもなくその答えとなるような風景を確実に捉え切っている。触れる物すべてが黄金に変わってしまうマイダス王ではないが、津田のカメラの前の風景が、そのまま古代人の見た眺めへと変容していくように思えてくるのだ。
もうひとつ、津田は展示のインスタレーションが実にうまい。会場になった品川のCANON GALLERY Sには何度も行っているのだが、今回まったく別なギャラリーのように感じて驚いた。スポット照明を効果的に使って観客を誘導し、最後にパネルで区切られた小部屋へと導いていく。そこには古代人の住居の内部を撮影した写真が並んでいるのだ。会場のレイアウトや写真の配置も、津田の作品世界を味わう時の、重要なファクターになることは間違いないだろう。

2012/09/07(金)(飯沢耕太郎)

飯塚景+姜善英+宮腰梨実「あの感覚を眺める」

会期:2012/08/25~2012/09/08

SAKuRA GALLERY[東京都]

今日は江東区が主催する現代美術講座のアートウォークの日。森下文化センターで30分ほどレクチャーした後、深川に点在するギャラリーに向けて炎天下を出発。受講者には高齢の方も少なくないので無事帰還したい。さて、深川のギャラリーといえば小山登美夫らが入ってる丸八倉庫ビルくらいしか知らなかったが、意外に点在しているもんだ。まずは清澄通りを少し入ったサクラギャラリー。ちょうど美大を卒業したての若い作家展の最終日だった。3人のうち寒天の実かイクラのような赤い粒々ばかりを描く姜善英は、この春BankARTでやった多摩美の院の修了制作展に出していたので覚えている。早くも画廊からオファーか。でもすぐ売れるわけではないけどね。

2012/09/08(土)(村田真)

稲垣遊 ほとり

会期:2012/07/31~2012/09/09

深川番所ギャラリー[東京都]

次に訪れたのは、隅田川のほとりの神社の脇に建つ民家を改造した深川番所ギャラリー。地震が来ればひとたまりもなさそうなボロい外観だが、建築事務所が運営しているだけに補強はしっかりしているようだ。展覧会はこの場所にちなんでか、川のほとりを撮ったモノクロ写真……と思ったら絵だった。日本画科出身のせいか水墨画を思わせるユニークな作品。これはもっと伸びるかも。このあと丸八倉庫の小山登美夫ギャラリー(ライアン・マッギンレー展)、タカイシイギャラリー(榎倉康二展)、シュウゴアーツ(池田光弘展)などを回ったが、集団で訪れたので集中できなかったせいか、それとも明日からのヨーロッパ旅行のことで頭がいっぱいだったからなのか、作品のことをあまり覚えていない。

2012/09/08(土)(村田真)

「自作自演」リーディング 西村賢太×本谷有希子

会期:2012/09/08

東京芸術劇場[東京都]

東京芸術劇場の東京福袋にて、西村賢太×本谷有希子の作家リーディングと対談を見る。初対面らしいが、好対照の二人で、面白い企画だった。俳優でもなく、読むプロのアナウンサーでもなく、作家本人が自分の書いたテキストを読む、というのは、どのように執筆していたのかを想像させて興味深い。本谷有希子は短編集『嵐のピクニック』から、カーテンの膨らみが気になりだす「私は名前で呼んでいる」と笑える「Q&A」を読む。いずれもだんだん語り手の素性が明らかになると同時に、小さな始まりが異様な事態にドライブしていく。朗読するときの間のとり方は、リズム感があって、やはり演劇をやっている人だ。一方、西村賢太は、『人もいない春』からの抜粋を朗読した。言うまでもなく、これも自分を重ねあわせた私小説である。狭い椅子で苦しそうに、途中で幾度か中断しながら、慣れない朗読を行ない、それ自体がパフォーマンスになり、ひとつのキャラとして成立している。彼の長いセンテンスの文章は、朗読には向かず、黙読的なのがよくわかる。

2012/09/08(土)(五十嵐太郎)

美術のくすり──KUNST・ARZTオープン企画展

会期:2012/09/04~2012/09/16

KUNST ARZT[京都府]

アーティストの岡本光博さんがオーナーを務めるギャラリーが新たにオープンした。「鑑賞者、社会に対して刺激のある『くすり』を提供していきたい」という趣旨のもとに名付けられたKUNST ARZT。ギャラリーのロゴにもカプセル型の錠剤がデザインされている。今展はそのオープニングの企画展で、岡本さんのほか、山本太郎、shimoken、現代美術二等兵、木内貴志、小川しゅん一という6組のアーティストが「くすり」をテーマに作品を発表。会場には、思わずニヤッと笑ってしまう「ボケ」作品が並んでいた。ただバカバカしい可笑しさだけでなく、どの作品にも鮮やかなウィットを感じて爽快な気分になった展覧会。今後も楽しみ。

2012/09/09(日)(酒井千穂)

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