artscapeレビュー
2009年12月15日号のレビュー/プレビュー
萩原雅紀『ダム』2007.2.16/『ダム2(ダムダム)』2008.1.18
発行所:メディアファクトリー
今年の「景観開花。」の土木系アイデア・コンペのテーマが、ダムだったので、ダムの写真集に目を通した。子どもの頃に開眼し、ダム・マニアとして各地を訪れている著者ならではのこだわりが楽しい。イントロダクションで書いているように、ダムは人類がつくりだした建造物で、最大級にデカイ。そして「さまざまな要素で構成される堤体のデザインにはふたつとして同じものがありません」という。なるほど、写真をめくると、多種多様のダムの姿が浮かびあがる。それは時代の変遷もあるだろうが、自然と地形とダイナミックに関わるからこそ、だろう。巻末には用語集もあり、ガイドブック仕立てだ。個人的には、崇高な美も見たいのだが、この本はむしろフィールドワーク的なまなざしが強い。また建築屋としては、写真だけではなく、なぜそうなかったかを考えるために、プランや配置図なども知りたいと思った。
2009/11/30(月)(五十嵐太郎)
佐藤淳一『恋する水門 FLOODGATES』
発行所:ビーエヌエヌ新社
発行日:2007年8月13日
この写真集も「景観開花。」にあわせて、手にとった。東北大の工学部卒の佐藤は、写真作家となり、水門に魅せられ、多くの場所を訪れ、撮影してきた。筆者も、数年前に宮城県美術館の展覧会において初めて彼の写真に出会った。興味深いのは、赤、青、緑など、巨大な門扉がカラフルであること。通常、水門の造形はモダニズム的な美学から発見されるものだが、その色彩が機能とは関係ないという意味では、ポストモダンに突入している。ところで、佐藤が現場でゲートの色は誰が決めるのかと尋ねたところ、「所長の趣味とかじゃないですかねえ」という答えが返ってきたらしい。そのテキトーな脱力具合がいかにも日本らしい。
2009/11/30(月)(五十嵐太郎)
オラファー・エリアソン あなたが出会うとき
会期:2009/11/21~2010/03/22
金沢21世紀美術館[石川県]
噂に違わず、自分の知覚がぐらぐらと撹乱させられる、素晴らしい展覧会だった。オラファー・エリアソンについて、あらためて紹介する必要もないだろう。1967年生まれ、ベルリンとコペンハーゲンに在住の現代美術作家であり、光や風といった自然界の要素を用いながら、人間の知覚にうったえかける現象を多く作品にしている。本展覧会は、金沢21世紀美術館の開館5周年を記念して開かれた大規模な個展であり、日本での個展は2005/2006年の原美術館についで二回目となる。
もっとも印象的だったのは《あなたが創りだす空気の色地図》だった。部屋に入った瞬間に、虹のなかに飛び込んでしまったかのような感覚に襲われる。赤から青へ、そして黄色へとグラデーショナルに色のついた空間である。三色の蛍光灯による光が、人工的な霧にあてられるという比較的シンプルな仕組みであるが、実際には色のついた空間を歩いているかのような体験である。しかもその空間には一点として同じ色がないかのように、微妙な配合で混じり合い、一歩歩くごとに、異なった色空間が立ち現われる。建築では、石上純也が《レクサスのための会場構成》(2005)において、霧の空間をつくりだした。石上はインテリアを風景化したのに対し、エリアソンは空間そのものに色をつけた。石上の手法は限りなく美術に近いがやはり主題は建築的な事象であり、エリアソンはまさに建築が扱うはずの空間をより深く操作しているけれども、だからこそ建築の手が届かない美術的な事象であると感じた。全部で20ほどある作品は、どれもこのように知覚を揺さぶり、認識のシステムを再考させるような作品であった。
もうひとつ興味深かったのは、それぞれの作品がこの美術館の空間をうまく読み解いた上で設置されたものであったことだ。例えば黒い巨大なボックスの、目線のあたりにのみ水平の隙間が開いていて一条の光が洩れてくる《微光の水平線》は、有料ゾーンと無料ゾーンの間の光庭を利用することで来館者の誰もが展示の存在に気づくと同時に、光庭を黒く覆うことでこの美術館をよく知っている人に大きな異化効果を与えるだろう。作品と美術館の空間の親和性が非常に高い展覧会であった。
展覧会URL:http://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=19&d=460
2009/11/30(月)(松田達)
Return to Origin
会期:2009/11/23~2009/12/05
大学在学時に「ナイスガイ」というグループを結成し、テキスタイル、絵画、立体作品など、それぞれの分野で活動する同輩とともに、ユニークな空間を創りあげる展覧会やイベントを行なっていたのが印象的で、その後の活動も気になっていた吉田雷太と石田真也。同大学の卒業生の戸田真人とともに3人展を開催していた。表現の手法はそれぞれ異なる3人。石田と吉田の作品の色彩は強烈なのだが、意外にもスッキリとした印象の戸田の作品が負けることなく、全体に調和のとれたバランスの良い展示空間になっていた。戸田の作品は、以前はただお洒落で洗練されたイメージが強い印象だったが、そこから脱して彼らしいウィットとそのセンスが発揮されている。表現を模索する若い作家たちのリアルな感情や意気込みが伝わってくる空間で清々しい。
2009/11月23日(月)(酒井千穂)
カタログ&ブックス│2009年12月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソン
2009年11月28日から2月7日まで東京都写真美術館にて開催されている『木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソン 東洋と西洋のまなざし』展カタログ。同時代に生きた世界的な写真家が東洋的視点と西洋的視点を持ってそれぞれの写真表現を掲載。同じライカの視点を通した共通の表現が感じられる。
東京ゼンリツセンガン
『東京旅日記』『東京夏物語』『乳房、花なり』『今年』『東京エロス』『東京緊縛』『エローマ・モノクローマ』『空』『東京恋愛』アラーキー写真集シリーズの第10弾!! ガンから生還したアラーキーの目に写る東京風景とは!![ワイズ出版サイトより]
INAX BOOKLET 糸あやつりの万華鏡 結城座375年の人形芝居 A Kaleidoscope on Strings 375 Years of Edo Marionette Theatre YUKIZA
INAXギャラリーにおける「糸あやつりの万華鏡 結城座375年の人形芝居」展にあわせ刊行されたブックレット。七代目市川染五郎と唐十郎が「結城座考」を、演劇評論家の大笹吉雄が論考を執筆。
デザインの小さな哲学
デザイナーのみならず、今後の文化の行方を問う者にとって必読のデザイン論。稀代のメディア・コミュニケーション論者にして、哲学的エッセイの名手が、designという語の意味や、デザイナー倫理から、デザインと神、東洋と西洋のデザイン観、傘やタイプライターや潜水艦、都市計画までを縦横に論じた。あらゆる領域でデザインが注目されるいま、デザインとは何であり、何でありうるか? 小さな一冊に、感性や思考への触発スイッチが多数仕掛けられた刺激的良書の待望の邦訳。[本書背表紙より]
超域 文化科学紀要 第14号 2009
東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻の発行する、毎年一回刊行の査読付研究雑誌。
2009/12/15(火)(artscape編集部)