2024年03月01日号
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artscapeレビュー

2011年07月15日号のレビュー/プレビュー

ZINE/BOOK GALLERY

会期:2011/05/07~2011/07/15

宝塚メディア図書館[兵庫県]

簡易印刷、簡易製本の手作りアートブックが、いつのまにか「ZINE」と呼ばれるようになり、注目を集めはじめている。「ZINE」を集めて展示したり販売したりするイベントも、いろいろな場所で行なわれるようになってきた。
写真集の図書館や映像・写真のワークショップなどを運営している宝塚メディア図書館で開催された「ZINE/BOOK GALLERY」は、おそらく関西でははじめての本格的な「ZINE」のイベントだろう。募集期間があまりなかったにもかかわらず、個人とグループを含めて96人、231冊が集まったというのは、まずは成功といえそうだ。6月11日には出品者のうち20名余りが集まって、トークイベントが開催された。僕も司会役で参加したのだが、こういう出品者同士の交流の機会が持てたことはとてもよかったのではないかと思う。お互いにどんな「ZINE」をつくっているのか確認できて、いろいろな刺激を受け、今後の制作活動に活かすことができるからだ。
ただ、出版物のレベルという意味では、まだまだという印象だった。パソコンを使ったデザイン・レイアウトが簡単にできるようになり、プリンターの性能が上がったことで、「ZINE」を実際に制作するうえでのハードルはかなり低くなっている。それが安易な垂れ流し的な表現につながっていることは否定できない。また、プライヴェートな日常の断片を無作為に綴っていくような「写真日記」的な造りの「ZINE」があまりにも多すぎるのも気になる。リラックスと緊張感をうまく使い分けて、写真集としてのクオリティを上げていってほしいと思う。
会場に並んでいた「ZINE」のうち、個人的には櫻井龍太の『姉とモモンガ』が面白かった。大阪人らしいサービス精神と語り口のうまさが、軽やかな写真の構成に活かされている。中国出身の劉通の『jin』にも別な意味で注目した。「jin」は「ZINE」ではなく「神、仁、人」のことだという。神話的な原風景を探し求める営みが、震えるような手触り感のあるモノクローム写真に封じ込められている。これら、あまりにも対照的な二つの写真集が、同じテーブルにほぼ隣り合って並んでいるのも、こういうイベントの醍醐味だろう。

2011/06/11(土)(飯沢耕太郎)

特別講座「復興へのリデザイン」第一回

会期:2011/06/11

せんだいメディアテーク[宮城県]

震災のあおりを食って、昨年秋にスタートしたせんだいスクール・オブ・デザインもプログラムの変更を余儀なくされた。まず2011年度の開講と2010年度の修了式が遅れて、6月になったこと。今期はスタジオのプログラムを走らせず、代わりに連続特別講座「復興へのリデザイン」とアジャイル・リサーチ・プロジェクトを行なうこと。そこで五十嵐は、「文化被災」を特集テーマとして、「S-meme」2号を制作する予定だ。6月11日は、せんだいメディアテークにて、第二期の説明会を行なった後、「復興へのリデザイン」の第一回「復興を設計する」を開催し、講師陣によるプレゼの後、参加者とともに討議した。

2011/06/11(土)(五十嵐太郎)

東北大学五十嵐研究室学生編集『ねもは』2号

発行日:2011年6月

文学フリマにあわせて、五十嵐研の学生らによる建築同人誌『ねもは』2号が完成した。完全版ではないとはいえ、300ページ以上のヴォリュームで500円。特集は、建築コンペやプレゼンテーションであり、分厚い資料編は、90年代の『建築思潮』を思い出す。加茂井新蔵の挑発的なアイデア・コンペ/擬似建築論(相変わらず読みにくい)、服部一晃のSANAA人間論、ゼロ年代シーンを歴史的に論じる市川紘司など、20代半ばによる論考を収録している。コンペ有名人のアンケートやインタビューも、20代の新人を強く意識した内容だ。震災によって東北大の研究室が使えず、図書館もろくに入れない状況で、よくこれだけの密度が濃い雑誌を制作できたものだと感心する(筆者の知るかぎり、被災しなかったエリアの建築系同人誌で、これより言説が充実したものは刊行されていない)。
『ねもは』1号からも設計思想が変更・発展し、『エディフィカーレ』を超え、『ラウンド・アバウト・ジャーナル』以来の最大の衝撃だ。これは歴史に残る。建築に閉じているという批判がいかにも出そうだが、社会に惑わされず、まずは建築を考えてよいと思う。

2011/06/11(土)(五十嵐太郎)

「こどもの情景──戦争とこどもたち」展/「ジョセフ・クーデルカ プラハ1968」展/「世界報道写真展2011」展

東京都写真美術館[東京都]

3つの写真展が開催されていたが、いずれも非常時をテーマにしていた。「こどもの情景──戦争とこどもたち」展は意外におもしろく、社会が起す過酷な状況において、社会経験の少ない子どもがどう反応するかを考えさせられる。「ジョセフ・クーデルカ プラハ1968」展は、街が闘争の場となる歴史的な事件の貴重な現場写真だが、パネルの画質が粗く、もっと良いクオリティで見たかった。「世界報道写真展2011」展は、世界各地の悲惨な出来事を記録している。今はどうしても日本の悲劇に目を奪われがちだが、世界にはわれわれが知らなかった事件や災害があまりにも多い。その後、初台に移動し、ホンマタカシの「ニュー・ドキュメンタリー」展を見たが、金沢21世紀美術館とは逆の順番で構成されていた。ベタなドキュメンタリーとは一線を画する世界の切りとり方である。

2011/06/12(日)(五十嵐太郎)

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八束はじめ『メタボリズム・ネクサス』

発行日:2011年4月23日

これは労作である。狙いも明快だ。突然変異ではなく、戦時下からの国家の歴史を背負い、メタボリズムが登場したことを位置づけている。建築論は個人の作品と思想に偏りがちだが、八束はじめは政治家や官僚の関わる都市計画・国土計画という社会的な問題と見事に接合させながら、大きな物語として20世紀半ばの日本建築史を描く。

2011/06/13(月)(五十嵐太郎)

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