artscapeレビュー
2010年05月15日号のレビュー/プレビュー
『SUR』
発行所:東京大学・都市持続再生研究センター
発行日:2010年1月20日(Special Issue 01)、3月25日(Special Issue 02)
東京大学グローバルCOEプログラム「都市空間の持続再生学の展開」における研究会や活動部会による冊子。01号では、太田浩史、阿部大輔、川添善行らによる都市計画寸法研究会の活動報告が掲載されており、後半の設計資料集成風の(もしくは多少、ヨーゼフ・シュテューベンの『都市建設』風の)都市の街路断面のカタログが情報量があって面白い。02号では、取り壊しがなされようとされている公団阿佐ヶ谷住宅をめぐる状況と、その可能性を求めるリサーチプロジェクトの検討案と提案が掲載されており、失われようとする東京の都市風景のひとつをいかに保全し取り戻すかという問題に対するケーススタディとなっている。この冊子は、販売されているものではないが、とても高いクオリティでつくられており、気になった。
2010/04/12(月)(松田達)
第4回展覧会企画公募
会期:2010/03/06~2010/04/25
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
キュレーターの支援育成を目的とする「展覧会企画」の公募展で、今回は入選したオル太、土橋素子と仲島香、菊地容作の3組が1フロアずつ展覧会を実現。オル太は大量の素材を持ち込んで部屋全体を田舎の風景に変え、土橋と仲島はウォールペインティングの上に、ドイツで知り合ったアーティストらの作品も交えて展示、菊地は肉屋の店頭と、その舞台裏を暴き出すようなインスタレーションを発表した。3つとも選ばれるほどのおもしろさは感じるが、どれも展覧会としてもう一歩の感は否めない。パンフレットの審査員講評を読むと、珍しく会田誠がアカデミズムに対して静かな怒りをぶつけていた。会田をマジにさせてはいけない。
2010/04/13(火)(村田真)
寺崎百合子:音楽
会期:2010/04/09~2010/05/29
ギャラリー小柳[東京都]
バイオリンやパイプオルガンを鉛筆で精緻に描いている。古い書物や図書館を鉛筆で描写する小川百合によく似ているなあ、同じ小柳でかぶるだろうに……と思ったら、同一人物だった。いつのまに名前が変わったんだ?
2010/04/13(火)(村田真)
ポーラミュージアムアネックス展2010─祝祭─
会期:2010/04/01~2010/04/25
ポーラミュージアムアネックス[東京都]
ポーラ美術振興財団から助成を受けたアーティスト4人のグループ展。インクジェットプリントした画面の一部に色彩を施す遠藤良太郎、合板を樹木などのかたちに切り抜いて彩色した小木曽瑞枝、テーブル上にパーティーグッズや食器を並べた斎藤麗、ドイツに住んで日本的題材のイラストを描く内田早苗と、タイトルの「祝祭」を意識した明るく楽しげな作品が多く、居心地が悪い。おれはグサッと刺されるような作品が見たいんだ。
2010/04/13(火)(村田真)
太田順一『父の日記』
発行所:ブレーンセンター
発行日:2010年3月21日
昨年の銀座ニコンサロンでの個展で、伊奈信男賞を受賞した太田順一の『父の日記』が写真集になった。太田の父が1988年から20年あまりノートに書き続けた「日記」をそのまま複写するように撮影した「父の日記」(モノクローム)46点に、「大阪湾の環境再生実験のため、岸和田の沖合につくられた人工の干潟」に2005年から1年ほど通って撮影した「ひがた記」(カラー)42点を加えて構成されている。
この二つの仕事に直接的なつながりはないのだが、日記の文字を拾い読みし、茫漠と広がる干潟のディテールを眼で撫でるように味わっていくと、生きものの生と死はこんなふうに写真に刻みつけられていくのだという感慨が、静かに広がっていく。これまで太田の仕事は、あくまでもストレートな(正統的な)ドキュメンタリーだったのだが、彼のなかにも表現者としての新たな可能性を模索する気持ちが芽生えてきているのではないだろうか。几帳面な字が次第に乱れて「毎日がつらい」「ボケてしまった」という殴り書きが痛々しい日記にも、海辺の生物や鳥たちの痕跡がくっきりと残る干潟の眺めにも、眼差しに裂け目を入れ、さまざまな連想を引き出す豊かな写真の力が呼び起こされている。たしかにすんなりと受け入れるのがむずかしい写真集かもしれないが、太田が伝えようとする“希望”のかたちは、多くの人が共有できるのではないかと思う。
ブレーンセンターから刊行された太田順一の写真集は、『化外の花』『群衆のまち』に続いて、これで3冊目になった。あまり売行きが期待できそうにない地味な写真集を、しっかりと出し続ける出版社の心意気にも敬意を表したい。
2010/04/14(水)(飯沢耕太郎)