artscapeレビュー
2010年05月15日号のレビュー/プレビュー
きょう・せい
会期:2010/04/02~2010/04/25
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]
京都市立芸術大学のギャラリーが新たにオープンした。2期にわたって開催される企画展のタイトルは「きょう・せい」。第一期の今展は、どの作品が誰の、という個々の展示ではなく、共同して作品制作、展示を行なうというもので、言ってみればごちゃまぜの作品で構成された会場になっていた。それなりに賑やかな面白さもある反面、作品によっては、むしろ各々の魅力が削がれてしまっている印象や作家たちの意識の温度差が目につくものもあり、少し残念な気もした。ただ、会場の順路には、京都市立銅駝美術工芸高等学校の卒業生の作品を展示した同時開催展の展示室もあり、それがとても良い。ここに伝統を受け継ぐとともに新しい表現者たちを育んできた京都の芸術環境の歴史や、その京都らしいあり方が示されている。個人的には「きょう・せい」という今展のタイトルは館自体の名称にしたら良かったのにと思うが、ともあれ、今後の活動に期待している。
2010/04/16(金)(酒井千穂)
2010年三影堂攝影奨作品展 交流 Confluence
会期:2010/04/17~2010/06/15
三影堂攝影芸術中心[中国・北京]
2007年に北京郊外の朝陽区草場地に設立された三影堂攝影芸術中心(Three Shadows Photography Art Centre)が主催して、昨年から始まった三影堂攝影奨。今年もおよそ210名(そのうち女性が4分の1)の写真家たちの力作が寄せられ、フランソワ・エベル(フランス)、エヴァ・レスピーニ(アメリカ)、カレン・スミス(イギリス、北京在住)、飯沢耕太郎(日本)、そして三影堂の創始者である榮榮(ロンロン)(中国)の審査によって、1981年生まれの張暁(ジアン・シアン)がグランプリにあたる三影堂攝影賞に選ばれた。柔らかな色調で現代中国の人物群像を描き出したシリーズで、その若者らしい躍動感のある被写体へのアプローチが高く評価された。ほかにもいい作品が多く、全体的には昨年よりもレベルが上がっているように感じた。ただ、作品の応募点数が去年より100点あまりも減っているのが気になる。広報活動がうまくいかなかったようだが、若い意欲的な写真家たちの活動の受け皿として機能させるためには、もう一工夫が必要なのだろう。見る者をワクワクさせるような作品が、もっと増えてきてよいと思う。
その今年の三影堂攝影奨作品展は、フランスのアルル国際写真フェスティバルと提携した「草場地春の写真祭2010」の一環として開催された。南仏のアルルで毎年7~9月に開かれるアルル国際写真フェスティバルは、1970年のスタートという長い歴史を誇る写真祭だが、それが中国の、まだ国際的にはほとんど知られていない写真センターの活動とリンクするというのは、ひとつの事件といえる。三影堂だけではなく、近年ギャラリーやアーティストのアトリエが急増して「芸術区」として注目されている草場地一帯で、30近い写真展が開催され、シンポジウム、ポートフォリオ・レビュー、スライド・ショー、コンサートなどの多彩な企画が展開されている。
ただこの催しが今後もうまく続くのかが心配だ。というのは、水面下できわめて深刻な事態が起こっているからだ。昨年あたりから、草場地一帯を再開発して、マンションやショッピングセンターを建設しようという動きがあり、「草場地春の写真祭2010」のオープニングの前々日に、三影堂にも正式に土地収用の通告が届いたのだ。つい最近も草場地に近い正陽芸術区で同じような問題が持ち上がり、当局が雇ったと思われる暴漢の襲撃で、日本人を含むアーティスト数名が負傷するという事件が起こったばかりだ。もちろん、表現の自由を求めて、時に政治的に過激な方向に走りがちなアーティストたちの存在は、政府や市当局にとって好ましいものとは言えないだろう。だが今回の事態はそのような「思想弾圧」というよりも、単純にここ10年あまりの不動産バブルによって、企業や住人たちのあいだに湧き上がってきている、手っ取り早くお金を儲けたいという気運に乗じたということのようだ。
だが、せっかく三影堂攝影芸術中心を立ち上げ、「草場地春の写真祭」をスタートさせたばかりの写真家たちにとってはまさに一大事だ。この「草場地問題」の推移は、写真に限らず、中国の現代文化、現代美術の将来を占う試金石になるだろう。草場地には三影堂の建物の設計者で、スケールの大きな美術作品でも知られる艾未未(アイ・ウェイウェイ)のアトリエもある。彼を含めて、アーティストたちがどのようにして自分たちの権利を主張し、活動を続けていくのか、注意深く見守るとともに、できる限りの支援をしていきたいと思っている。
2010/04/17(土)(飯沢耕太郎)
津田大介『Twitter社会論』
発行所:洋泉社
発行日:2009年11月21日
メディアジャーナリストの津田大介によるツイッター概論。本書はツイッターが特に日本で普及し始めた2009年の秋に出版され、そのさらなる火付け役の一端も担ったといえるだろう。ツイッターの説明や特色(第1章)、ツイッターの活用法(第2章)などは、類書やマニュアル本と重なる部分もあるが(とはいえ、本書がその土台となっている部分もあろう)、特に第3章の社会との関係を論じている部分は、モルドバやイランでの情報統制への対抗や、ペプシコーラとコカコーラのフォロー関係、イギリスの公式ガイドラインについてなど、より具体的な情報が興味深い。ツイッターを知るうえでの良書であることは間違いないが、いくつかポジティブに転化しすぎる記述も実は気になった(米海軍がツイッターの使用を禁止していることを、普及期が既に終了したと解釈するなど)。とはいえ、巻末の勝間和代との対談でもキーワードとなっている、いわゆるキャズム(メインストリームに移行する前の深い溝)越えを控えたツイッターの、現在の状況を知るためには、記述も分かりやすく最適の本である。
2010/04/17(土)(松田達)
周育正:レジデンシー・グッズ
会期:2010/04/17~2010/04/25
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
横浜市と台北市によるアーティスト交流プログラムで、3カ月間BankARTに滞在していた周さんの発表。作品は映像で、「わたしはTAV(Taipei Artist Village)の補助する10万台湾ドル、日本円で285,000円をもって横浜にきた」とか、「池田さんから暖かいお招きをいただき、とてもおいしい日本料理屋でご馳走になった」とか、「わたしもこの交流プログラムが未来に向けて発展する可能性と、その資金の出所について考えている」とか、英文が流れるばかり(卓上のパソコンの画面では日中両国語が見られる)で、画像が出てこない。いつ「本編」が始まるのかと思ったら文章だけで終わってしまった。その両脇には、「アーティスト」「アート・インスティテューション」「カルチュラル・デパートメント」の3者の関係がグラフで示されている。どうやら周さんは、レジデンスに招かれたこと自体を自己言及的に作品化しようとしたらしいのだが、そのわりにレジデンシープログラムの経済的仕組みに肉迫するわけでもないし、その政治的背景を暴露しようというつもりもないらしい。どこにも着地できない中途半端さが残る。それがねらいか? まさかね。
2010/04/17(土)(村田真)
ボストン美術館展
会期:2010/04/17~2010/06/20
森アーツセンターギャラリー[東京都]
レンブラント、ミレー、モネ、ゴッホなど、キラ星のような名前が並ぶ。でも、超高層ビルの52階で展示することが許されたくらいだから、国宝級には手が届かない作品が大半。とはいえ、モネの《ルーアン大聖堂》、ドガの《田舎の競馬場にて》、ゴッホの《オーヴェールの家々》は、それだけでも見に行く価値があった。このあと京都に巡回するそうだが、名古屋ボストン美術館へは行かないらしい。
2010/04/20(火)(村田真)