artscapeレビュー

2010年12月15日号のレビュー/プレビュー

SO+ZO展「未来をひらく造形の過去と現在 1960s→」

会期:2010/11/13~2010/11/28

Bunkamuraザ・ミュージアム+桑沢デザイン研究所1階ホール[東京都]

桑沢デザイン研究所や東京造形大学を設立したデザイン教育者、桑澤洋子の生誕100年を記念した展覧会。タイトルの「SO+ZO」とは、桑デ(桑=SO)と造形大(造=ZO)出身者が出品しているから。まずBunkamuraの会場を一巡してみて、なんだデザインばっかりで絵画・彫刻がほとんどないじゃないかと思ったら、第2会場の桑デに展示されていた。たぶん第2会場まで足を運ぶ人は少ないだろうから、絵画・彫刻は圧倒的に不利。まあそういう力関係だということだ。もうひとつ、出品は現在活躍中の人たちに限られ、かつて華々しく活躍した(現在は鳴りを潜めている)人や、現在も地道に活躍している人たちに門戸が開かれていないのはちょっと寂しい気がする。ところで、1973年に造形大に入学した新入生は、入学式の混乱からバリ封、機動隊による学生の排除にいたるまで数カ月にわたる一連の出来事を忘れてないはず。それがカタログの年表にまったく記載されてないのはいかにも不自然だろう。年表に載っている1970年の「桑沢共闘ハンスト、バリケード封鎖」に比べればとるにたりない出来事だったのか。

2010/11/18(木)(村田真)

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大野一雄フェスティバル2010

会期:2010/11/19~2010/12/12

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

今年6月1日に103歳で亡くなった大野一雄の、舞踏公演の記録映像や新聞記事などのアーカイブを公開。今日は初日なのでオープニング公演「ハレルヤ!」が開かれた。1番手は笠井叡。60代後半とは思えないキレのいい身体と動きで、鈍足の暗黒舞踏を吹き飛ばしてくれた。と思ったら、ふっくらしたニコニコ顔のおばあちゃんが場所を間違えたかのように歩み出てきた。2番手の高井富子は大野や土方巽にも師事した舞踏家だが、身体も動きも笠井とは対照的で思わず苦笑。もっと笑ったのは、トリの創作ダンスひまわり会。4~5人のおば(あ)ちゃんがシュミーズ姿で登場し、素人丸出しの踊りを披露したのだ。これには唖然。アウトサイダーアートならぬ、アウトサイダーダンスというか。いやーさすが大野フェス、奥が深い。

2010/11/19(金)(村田真)

國府理「Parabolic Garden」

会期:2010/11/09~2010/12/04

ARTCOURT Gallery[大阪府]

昨年、群馬県立館林美術館で展示された《Typical biosphere》に改良を加えた作品をはじめ、車輪のついたパラボラアンテナの上に苔の庭が広がる《Parabolic Garden》、一時間ごとに天井から雨のシャワーが降り注ぐ巨大な《砂漠の庭 Desert Garden》など、植物の生態系そのものを取り入れた大型彫刻作品が複数発表された個展。あえて植物を“自然”の土壌から切り離し、大きな装置にした作品のスケールもさることながら、 國府の表現にはいつも、人間のもつ計り知れない創造力や夢と同時にその破壊力や現実の葛藤も表われていて動揺する。植物だけでなく人間の身体感覚、感情もふくめ、生きるものの時間を機械などの性質と対立させるのではなく、また、科学技術と自然とを対立するものとして扱うのではなく、それらが出会う瞬間から切り離されてしまいがちな双方の関係を見つめ問い続ける眼差しの深さを感じるのだ。
図版=展示風景。國府理《砂漠の庭 Desert Garden》

2010/11/19(金)(酒井千穂)

金沢工業大学建築アーカイヴス研究所

[石川県]

金沢工業大学における、国内初の建築アーカイヴに関する研究機関。所長は竺覚曉教授。金沢工業大学は、2007年3月に日本建築家協会との協同でJIA-KIT建築アーカイヴスを開設し、近現代の建築家が作成した図面など建築関連資料を、文化遺産として収集・保存・整理・調査・公開を行なうなど、一私立大学でありながら建築アーカイヴに関して先導的な立場をとっている。この活動と並行してアーカイヴに関する研究を行なうため立ち上げられたのが本研究所であり、図面から3次元データ、アーカイヴの方法論や実情調査など、建築アーカイヴスに関する全般的な研究を行なっている。特に貴重資料室には、アルベルティなど15世紀以降の希少本が集まっており、日本ではここでしか見ることのできない本が多数あるという。なお、今後の建築資料は有事に備え、ネットワーク化してアーカイヴされていく必要があるという。つまり、アーカイヴもクラウド化の方向に向かっている。

2010/11/20(土)(松田達)

オットー・ディックスの版画「戦争と狂乱──1920年代のドイツ」

会期:2010/11/03~2010/12/19

伊丹市立美術館[兵庫県]

二つの世界大戦を体験しながら、人間の本質に迫ったドイツの画家、オットー・ディックスの版画約90点が展示された展覧会。ディックスが第一次世界大戦では自ら従軍志願し兵役に就いていたという事実を私は今展まで知らなかったが、戦地における兵士たちの狂気にみちた行動や情景を描いた作品の数々は特に強烈で、胸が詰まるような思いで見なければならなかった。手足を失い路上に座り込んでマッチを売る男性、娼婦、戦場の軍隊、狡猾な笑みを浮かべる女性、貧しい人々など。ディックスが描いた人々の顔に美しいものはない。すべて、容赦ない他者へのまなざしがそのままに表われている版画であった。折しもこの日、京都精華大学客員教授で京都大学名誉教授の池田浩士氏による「オットー・ディックスと20世紀の自画像」というタイトルの講演会を聞くことができた。「いかなる註釈も必要としないような物事が、この世にはあるのだ」というディックスの言葉から氏は 、ディックスの制作はものごとを註釈するのではなく、目に見えるように描くことで、これまでわれわれが知っていたこととは“別の姿”があるという事実を、見る人とともに“発見”していく作業であったと述べていた。また、戦争が「偉大なる正義」という常識のなかで描かれたその表現には、現実と理念との齟齬を自らに納得させない、美化させない決意があり、それこそが彼の制作の原点だという氏の言葉が、「直視せよ!」というチラシの言葉とともに強く重く響いていつまでも引きずった。ぜひ多くの人に見てもらいたい展覧会だ。

2010/11/20(土)(酒井千穂)

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