artscapeレビュー
2010年12月15日号のレビュー/プレビュー
百々俊二「大阪」
[東京都]
銀座ニコンサロン
2010年11月24日~12月7日
TOKIO OUT of PLACE
11月26日~12月25日
7月に刊行された百々俊二の写真集『大阪』(青幻舎)は、今年の大きな収穫のひとつといえるだろう。自分が生まれ育った大阪市城東区関目の四軒長屋から始めて、大阪一帯を8×10インチ判の大判カメラで隈なく撮影したシリーズである。最初の写真集『新世界むかしも今も』(長征社、1986)で撮影した天王寺、西成界隈をはじめとして、「自分の記憶のある場所」を辿り直すような自伝的な色合いが強い。だが、大判カメラに克明に写し込まれた街と人とのたたずまいは、百々の個人的な経験に留まることのない「都市写真」としての普遍性を備えていると思う。「見えるうちに見尽くしておこう」という強い意欲がみなぎる、勢いを感じさせる写真集だった。
写真集の刊行からはやや時間がたってしまったが、そこに収録されている写真をまとめてみせる展覧会が、銀座ニコンサロンとTOKIO OUT of PLACEで開催された。それらを見ていると、写真集とはまた違った思いが湧き上がってくる。写真にはさまざまな「大阪人」の姿が写り込んでいるのだが、展示されたプリントで見た方が、彼らと直接的に対面しているような「生な」感触が強まっているのだ。8×10インチの大判フィルムには、カメラの前の光景を根こそぎ、しかも生々しい鮮度を保ったまま画像化する魔術的な力が備わっているのかもしれない。その不気味なほどのリアリティに、思わずたじろいでしまった。
なお、渋谷のZEN FOTO GALLERYでは、百々俊二と井上青龍の二人展「釜ヶ崎──新世界 高度経済成長時代下の生き方」(11月26日~12月19日)も開催されている。井上青龍は大阪の岩宮武二スタジオで森山大道の先輩にあたり、森山に路上スナップショットの面白さを教えた写真家である。その井上の1960年代の釜ヶ崎と、百々の1980年代の新世界のスナップ写真がヴィンテージ・プリントで並んでいた。こちらも大阪の街に染み付いた哀感が漂ってくるようないい展示だった。
2010/11/27(土)(飯沢耕太郎)
泉太郎「こねる」
会期:2010/11/02~2010/11/27
神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]
昨年暮れ、同じ場所でのグループ展「日常/場違い」でぶっちぎりの作品を見せてくれたと思ったら、もう一本釣りされて個展だ。少し早すぎるんじゃない? だって彼の作品は階段の踊り場とかギャラリーの備品室とか隅っこのほうでイジケて見せるほうが本領を発揮するのであって、こんなでかいギャラリーを丸ごと与えてしまうのは不粋ではないか、と思ったからだが、大間違いでしたね。空間の大きさは関係なく、その場所を読み切って作品をつくっている。たとえば大ギャラリーの円柱に沿って螺旋状の道をつくり、カメラをつけた車を走らせて映像を撮った作品。この円柱はかねがね「邪魔物あつかい」されてきたが、それをこれほど有効活用した例を知らない。あるいは、細長いギャラリーに小屋を組み立て、なかにペンキや日用品とともに本人が入り、小屋ごと回転させて撮影した映像インスタレーション。ギャラリーの床には小屋が回転した跡が残っているのだが、これはひょっとして昨年の「日常/場違い」に出された久保田弘成の廃車を回転させる映像や、電柱を洗車機に通すインスタレーションと共鳴しているようにも見える。空間と時間をこねまわした見事な個展。
2010/11/27(土)(村田真)
森田麻祐子「パプリカのCAN」
会期:2010/11/22~2010/11/27
Oギャラリーeyes[大阪府]
森田麻祐子の新作展。数年前に旅先のハンガリーで買ってきたものの、未開封のまま現在も自宅の棚で置物のようにあるというパプリカの缶をタイトルに、旅の思い出からイメージを広げた作品が展開していた。展示されたドローイングやペインティングは、それぞれが独立したタイトルをもつものの、色やモチーフの形など、どの作品にも画面のどこかに他の作品と連関する記号的な要素がある。 緑の中に赤い三角屋根の家々が並ぶハンガリーの風景の印象をもとに描かれた《樹のある家》や、画中の女の子が缶を開けようとする動作の映像が投影される作品など、具体的なイメージをもつものがほとんどなのだが、 画面に描かれた図形やパターン、配置など、それらは反復する要素が鍵となったパズルのようで、さまざまな物語の連想を導いていく。 空間全体がひとつのインスタレーション作品として成立するのも面白い魅力的な個展だった。
2010/11/27(土)(酒井千穂)
GA JAPAN 2010
会期:2010/11/20~2011/01/23
GAギャラリー[東京都]
出展者は安藤忠雄、磯崎新、伊東豊雄、北川原温、隈研吾、SANAA、西沢立衛、藤本壮介、山本理顕の各氏。GA JAPANシリーズの展覧会では、つねに日本の建築界の最前線の状況を垣間見ることができる。展示物は模型と図面、いくつかの映像であり、その情報は総合的であるが、GA JAPANでの展示では、「建築的な前進」の一歩が、最後に明際立つかたちで浮かび上がってくることが多いと感じる。今回の展示では、伊東豊雄は今治の《伊東豊雄ミュージアム》でベースにしていた60度を元にした多面体を、さらに複数の角度を組み合わせた自由な形にした《ベガ・バハ博物館》を、隈研吾は建築を埋める方向を極限にまで突き詰めたような、山の中の三葉形の切れ目のような建築を、SANAAは建築の単位が部屋となり、徹底した「床」の積層により庭や駐車場まで「床」となったような集合住宅を、藤本壮介は上海の美術館の一部にて、屋根までガラスの構築物と、むしろそれより目立つ樹木の組み合わせを、山本理顕はかつての県営保田窪団地での住宅とコモンスペースの関係を、トポロジカルに相同な形で変換させ縦列に複数棟配置させたソウルの集合住宅を、それぞれ提示していた。非常にテンションの高い展示だと感じた。
2010/11/28(日)(松田達)
築山有城「DYNAMO」
会期:2010/11/19~2010/11/30
ギャラリー301[兵庫県]
築山有城の新作展。壁面全面に稲妻をモチーフに描いた巨大な作品が展示されていた。昨年自宅から見たという閃光の強烈な印象をもとに制作されたもので、画面が鉛筆のみで黒く塗りつぶされた力強いシンプルな作品。その制作の発端となった小さなドローイングも入口近くに展示されていた。日が暮れてあたりが暗くなると、壁面の反対側の窓ガラスに反射した画面の稲妻が映りこむ。これは作家の意図にはなかったことなのだそうだが、通りを隔てた向かいのビルのオフィスの様子や、そこで働く人々の姿もすぐそこに見えるというガラス窓に浮かぶ鏡面の像がまた美しい。数カ月を費やし、闇に突如現われる圧倒的な閃光を表現しようとただ黙々と鉛筆を握り動かす作家の意欲と消耗と、その愚直な態度をくっきりと映し出していると感じる光景だった。
2010/11/29(月)(酒井千穂)