2021年12月01日号
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artscapeレビュー

2010年12月15日号のレビュー/プレビュー

林勇気「the world and fragments of the world」

会期:2010/11/06~2010/12/18

ギャラリーヤマキファインアート[兵庫県]

新作3点が発表された個展。撮影した膨大な数の写真をすべてパソコンにとりこみ、切り抜き、重ね合わせて制作されるアニメーションは、作家が目にするごく日常の風景や数々のを再構築したもので、記録と記憶の間を彷徨うように移り変わる風景が展開する。林さんのアニメーションの画面には劇的な変化はいつも見られない。登場人物はテレビゲームのなかの主人公のように、ピョンとなにかに飛び乗ったり、モノをよけたり、歩く動作を見せながら、ただ画面の中を同じ方向に移動する。これまで発表された作品ではスクリーンの端から端へ、または上から下へと流れていくように人物が動くもので、その静かなループが音楽的な余韻を与えるものだったが、今展の最新作では、人物は画面の奥へ奥へと進み、景色は3D映像のように空間的な奥行きをもって移り変わっていく。景色は人物が歩き進むと徐々にくっきりと見えてくるが、遠くは霧の中のように朧げで曖昧。「終わり」の見えないその世界のありさまは、自分の日常にも思いをめぐらすものだった。

2010/11/20(土)(酒井千穂)

しんぞう×窪澤瑛子 二人展「荒野をおよぐ land swimming」

会期:2010/11/20~2010/12/12

竜宮美術旅館[神奈川県]

和洋折衷のドキッチュなラブホを改装した竜宮美術旅館。この魅力的な場所で注目されるには場所以上に作品が魅力的でなければならない。しかもこういう場所では絵画よりも、サイズや形態が可変的なインスタレーションのほうがふさわしい。絵画にとってはハードルが高いのだ。しかし今回しんぞうの絵画はそれをクリアしていたように思う。それはおそらく、彼女(しんぞうは女性だった)の絵が死体のような不吉なにおいを漂わせているからであり、それが性=生を象徴するラブホの空間と拮抗しえたからではないか。インスタレーションの窪澤はまだ力不足の感がぬぐえない。経験の差か。

2010/11/22(月)(村田真)

鯉江真紀子 個展

会期:2010/11/12~2010/12/22

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

京都在住の鯉江真紀子は、一貫して風景を多重露光した大きな画面の写真作品を制作し続けてきた。特に今回の個展でも展示されていた、競馬場らしき場所に群れ集う人の群れを、俯瞰するような構図で撮影した作品に執着し続けている。鯉江の心を捉えているのは、人が集団となった時に発する巨大なエネルギーの放出のあり方ではないだろうか。個々の人物を撮影しただけでは見えてこない、圧倒的な群衆のオーラのようなものが、多重露光の操作によってより増幅されて伝わってくる。
しかも、2000年代初頭にツァイト・フォト・サロンで展示されていた作品と比較すると、そのオーラの捕獲装置の精度が増し、洗練されてきているように感じる。2009年に、岡山県倉敷市の大原美術館を舞台にした大規模な個展を成功させたことで、写真作家としての自信が深まっているのだろう。さらに今回の展示では、従来の群衆の多重露光の作品に加えて、シンプルな構図で光と影のコントラストを強調した、2枚組のシークエンス作品もいくつか展示されていた。発想と手法の広がりによって、さらなる飛躍が期待できそうだ。なお、2010年12月中には代表作を集成した作品集『Aura』(青幻舎)が刊行される予定である。

2010/11/24(水)(飯沢耕太郎)

木藤純子+水野勝規 二人展

会期:2010/10/16~2010/11/27

GALLERY CAPTION[岐阜県]

木藤純子と水野勝規の二人展。会場に入ると、水を張った大きなガラスの容器に青空のイメージが映る木藤の作品《sky pot》がまず目に入る。これはもともと二つ制作されたのだそうだが、今展には、不意に割れてしまったというひとつの《sky pot》をめぐる物語が会場のあちこちに潜んでいた。ギャラリーのひとつの空間に割れたガラスの容器や花の冠、壁に直接描いたドローイングなどのインスタレーション。通路の窓辺にはとても小さなガラス玉も並んでいた。なにも知らずに展示を見るだけでは、その私的な物語を知り得ることもなく、謎に包まれていて戸惑うのだが、あらすじを聞くと、それらが見る見るうちに深度を増して美しく感じられる。奥のスペースには水野の《monoscape》という連作の映像作品が並んでいた。複数のモニタに映る景色とその時間は淡々と流れていくが、微細な空気の変化や感触をイメージさせる瞬間がある。ふたりの表現には一見、強烈に突出する印象や究極の要素はない。けれど、共通して、エレガントという絶妙な性質も潜んでいる。

2010/11/25(木)(酒井千穂)

谷澤紗和子「おたのしみ会の準備」

会期:2010/11/09~2010/11/28

MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w[京都府]

会場に入った途端に、緩やかなテンポの楽し気なBGMが聞こえてきて一気にこちらの気持ちを解きほぐすよう。なんともユルい雰囲気が快く思わず笑いもこみ上げた。梱包用のクラフト紙でつくった細かい切り紙細工の装飾が天井からたくさんつり下げられたその空間に森の中に分け入るように入っていくと、粘土でつくられた土偶のような奇妙な人形があちこちに置いてあった。連続する切り紙細工の模様の影がゆらゆらと壁に映る空間に立っていると、身近にあるものをいろいろな生き物や道具に見立てて並べ、空想を楽しんだ子どもの頃の記憶も巡ってくる。これまで私が見た谷澤の作品の、身体の生々しさをともなう繊細な表現は、その魅力の分、作品世界にスッとは入り込みにくい緊張感や迫力も感じられる印象があったのだが今展ではそれはなかった。かえって、その魅力は濾過され抽出されているように感じた。

2010/11/26(金)(酒井千穂)

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