artscapeレビュー

2013年08月15日号のレビュー/プレビュー

ヤノベケンジ展 ようこそ!サン・チャイルド!──AICHI TRIENNALE 2013

会期:2013/07/24~2013/08/05

あいちトリエンナーレオフィシャルショップ名古屋三越栄店[愛知県]

名古屋三越栄店のあいちトリエンナーレ2013のオフィシャルショップで開催中の「ヤノベケンジ展 ようこそ!サン・チャイルド!」を見る。サン・チャイルドの誕生、その経緯を詳しく紹介するものだ。サン・チャイルドは三体存在し、日本のみならず、世界各地を移動したり、設置されているという。現時点では、福島空港、大阪、愛知芸術文化センターに存在する。これはいわば原子力事故後の平和を祈願する、平成の大仏建立と言えるかもしれない。なお、会場ではサン・チャイルドのフィギュアも新発売していた。

2013/07/30(火)(五十嵐太郎)

風立ちぬ

宮崎駿の映画『風立ちぬ』を見る。震災と敗戦という2つの廃墟に挟まれた、工学/芸術、ロマンティシズムの物語だ。これを批判をするのは簡単だが、巨匠があえてバランスに配慮せず、好きなことを追求しつつも、モノづくりの魔力と(現在にも通じる)当時の社会批判を描こうとしたことにクリエイターの矜持を感じる。実際、宮崎は憲法改悪の動きに反対している。なお、映画では、タバコの煙を含む空気の動き、関東大震災での地面の揺れなどの表現が興味深い。また名古屋が登場し、昔の街並みが描かれている。

2013/07/30(火)(五十嵐太郎)

トーキョー・ストーリー2013 第3章「私をとりまく世界」

会期:2013/07/13~2013/09/23

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

TWSのレジデンス・プログラムに参加したアーティストによる成果発表展。今回は海外に派遣された池田剛介、奥村雄樹、東京に招聘されたヌール・アブアラフェ(パレスチナ)、モハメド・アブデルカリム(エジプト)、スッティラット・スパパリンヤ(タイ)の5人。しかし展示を見ると、奥村の作品が見当たらず、代わりに井出賢嗣が入っている。はて? リーフレットによれば、奥村は2国間交流事業プログラムでバーゼルに滞在していたが、同プログラムに選ばれなかった井出に、もしバーゼルに滞在していたらつくったであろう作品を制作せよとの指示を送ったという。それに対して井出は、落選者に制作を依頼するのはバカにしていると述べ、この話をニシノという旧友にしたところ、作品を提供してくれたという。つまり奥村は井出に指示を出しただけで作品は出さず、依頼された井出も自分の作品を出すことなく、旧友の作品を展示したというのだ。もしこの話がホントなら、奥村は2カ月半におよぶ滞在制作期間中に上記の指示を出しただけ、しかもその指示は実現しなかったということになる。でもそれは考えにくいので、一部始終がふたりで仕組んだコラボレーション作品だったと見るべきかもしれない。しかしふたりは当落を分けた間柄なので(それもつくり話かもしれないが)、対等なコラボレーションというのは考えにくい。となると、奥村の指示は井出によって実行された、つまり井出は怒りつつか怒りを装いつつかは知らないが、奥村の指示を受け入れてこのような作品に至ったとも考えられる。いずれにせよこれは、レジデンス・プログラムを渡り歩くアーティストによる、レジデンス・プログラムそのものを俎上に載せた作品といえるだろう。

2013/07/31(水)(村田真)

坂田栄一郎「江ノ島」

会期:2013/07/13~2013/09/29

原美術館[東京都]

坂田栄一郎のデビュー作は、ニューヨークのタイムズ・スクエアで道行く人々に声をかけて撮影したという「JUST WAIT」(銀座ニコンサロン、1970)である。その後、技巧的な趣向を凝らしたポートレート作品を中心に発表してきたが、今回東京・品川の原美術館で開催された「江ノ島」展には、彼の原点回帰というべき、気合いが入ったストレートな作品が並んでいた。
中心になっているのは、砂浜に広げられたレジャーシートの上にまき散らすように投げ出された衣服やグッズ類を、原色を強調して俯瞰するように撮影した「人のいないポートレート」のシリーズ。無人の光景ではあるが、たしかにそれらを所有する人物たちの姿が、ありありと、容赦なく浮かび上がってくるように感じる。この目のつけどころのよさは、さすがというしかない。こういうモノの側から照らし出す社会的ドキュメントは、もっと若い写真家たちが試みてもよさそうなものだが、これまではなかなか出てこなかった。都市圏と田舎の境界線上にある江ノ島という絶妙な場所の設定も、うまく働いているではないだろうか。
2Fの会場には、派手な化粧や水着の若者たちを、青空をバックに正面から撮影したポートレートが10点ほど並ぶ。これらは手法的にも、まさに「JUST WAIT」の現代版と言えるだろう。ほかに、やや文学的な陰翳を感じさせる「波」のシリーズがあったが、これは展示構成としてはやや余分だった気がする。

2013/07/31(水)(飯沢耕太郎)

米田知子「暗なきところで逢えれば」/トーキョー・ストーリー2013「私をとりまく世界」

[東京都]

暗なきところで逢えれば:東京都写真美術館 2階(2013/7/20~9/23)
私をとりまく世界:トーキョーワンダーサイト渋谷(2013/7/13~9/23)

米田知子の「暗なきところで逢えれば」展(東京都写真美術館)は、場所と記憶をめぐる写真たちが並ぶ。一見なんの変哲もない風景と思い、通り過ぎたものが、別刷の作品リストのタイトルを読むと、歴史的な事件の現場であることがわかり、そのギャップに驚かされる。すなわち、直後のドキュメントではなく、しばらく時間が経過した後に現場で撮影したものだ。モニュメントとは違うかたちで、日常のなかに静かにひそむ記憶を抉る。
次に、やはりあいちトリエンナーレ出品作家の池田剛介が参加している、渋谷の「トーキョー・ストーリー2013」展へ。南相馬の仮設住宅地では自転車による発電プロジェクトを行なったように、水と運動エネルギーを使うのは彼の特徴だが、今回は「干渉の森」と題し、ぐるぐる回転する小さな植物群を使い、とりわけユーモラスにも見えるインスタレーションだった。微振動が電気エネルギーとなって、かすかな音に変換される。

写真:池田剛介 《干渉の森》

2013/07/31(水)(五十嵐太郎)

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