artscapeレビュー
2016年02月15日号のレビュー/プレビュー
ローラン・グラッソ展「ソレイユ・ノワール」
会期:2015/11/11~2016/01/31
銀座メゾンエルメス フォーラム[東京都]
柱に沿って祭壇画を思わせる三連パネルが10枚ほど並び、その前に彫刻を置いたり、ネオンを仕掛けたり、絵や写真を飾ったり、屏風のようにパネルに直接描いたりしている。日食や流れ星などの天体現象を描いた油絵は、15世紀フランドル絵画やプレルネサンスのイタリア絵画に倣った精密なもの。本人が描いたのかな? 綿密に計算され、工芸的な完成度を誇るディスプレイだが、つくり込みすぎの感がしないでもない。
2016/01/21(木)(村田真)
柿本ケンサク「TRANSLATOR」
会期:2016/01/16~2016/01/31
柿本ケンサクは1982年、香川県生まれ。学生時代から映像作家として活動し始め、コマーシャルフィルムを中心に多くの仕事をこなしてきた。今回の代官山ヒルサイドテラス ヒルサイドフォーラムでの個展は、写真家としての本格的なデビュー展になる。
ソルトレイクシティのハイウェイ、アイスランドの氷海、スコットランド・アバディーンのCM撮影現場、カザフスタンのロケット打ち上げ、イギリス・ウェストンスーパーメアのアーティストがプロデュースしたという遊園地、モンゴルの草原地帯の人々──世界中を移動しながら仕事を続けている映像作家らしく、次々に新たな眺めがあらわれては消えていく。被写体のつかまえ方は揺るぎなく的確だし、それぞれのエピソードごとの写真群の並べ方、まとめ方も実にうまい。とはいえ、その映像センスのよさは諸刃の剣で、どこか空々しい「コマーシャルっぽさ」を感じてしまう写真も多かった。
気になったのは、むしろ撮影の合間にふと横を向いてシャッターを切ったような日常的な場面の写真で、それら空き瓶、食べかけのバナナ、枯れ葉や吸い殻に覆われたマンホールの蓋、プラスチック製の蠅たたきなどの捉え方に、彼らしいものの見方が芽生えつつあるように思う。今のところ、個々のエピソードを繋いでいく強固なメッセージはまだ見えてこないが、巨視的なイメージと微視的なイメージを対比させたり、重ね合わせたりしていくことで、「写真家」としてのスタイルが定まっていくのではないだろうか。そんな可能性を強く感じさせる展示だった。
2016/01/22(金)(飯沢耕太郎)
DOMANI・明日展
会期:2015/12/12~2016/01/24
国立新美術館[東京都]
文化庁が派遣する芸術家在外研修の成果発表展。今回は「表現と素材──物質と行為と情報の交差」をテーマに、2000年以降の研修生から14人が選ばれた。絵画の木島孝文、富岡直子、古川あいか、彫刻の松岡圭介、映像とインスタレーションの栗林隆、立体モザイクの西ノ宮佳代、写真の田村友一郎といった面々で、テーマどおり「表現と素材」はさまざま。まあだれを選んでもこのテーマから漏れることはないけどね。特筆すべきは木島孝文。縦横8メートル近い壁いっぱいに麻布、セメント、タイル、漆喰などを使った絵をはめ込んでいる。わざわざこの会場に合わせてつくったとしか思えない作品で、展示が終わったらどうするつもりだろう。もうひとりは、ふとんや枕やシーツのしわばかり描いている古川あいか。布の上に布の表情を上書きしてるわけだが、最近は古代彫刻やミケランジェロの着衣像のしわを継ぎはぎしたり、しわの絵を木枠に張らずに天井から吊るすなど、「素材と表現」をさらに重層化させて興味深い。ところで、同展は海外での研修の成果を示す展覧会だと思ったら、なぜかひとりマイペースで風刺木版画を制作し続ける作家がいた。風間サチコだ。彼女のように作風がブレない肝のすわった作家に在外研修は無意味、税金の無駄使いではないか? と思ったら、彼女は優秀美術作品買上制度で文化庁に作品が買い取られたため、在外研修は受けてないけど特別ゲスト枠で出てるそうだ。まぎらわしいよ。
2016/01/22(金)(村田真)
アジア創造美術展
会期:2016/01/20~2016/02/01
国立新美術館[東京都]
「ドマーニ展」のついでに見た。絵画、水墨画、写真、彫刻、なんでもある。さらに書のインスタレーションもあれば、エロいイラストもあり、扇子のコーナーまである。なんなんだこのアナーキーさは。
2016/01/22(金)(村田真)
ジェネレーションY:1977
会期:2016/01/23~2016/01/31
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
ファッション通販ZOZOTOWNを運営する前澤友作社長が集めたコレクションのうち、自分と同世代のペインター3人の作品を公開している。エイドリアン・ゲーニー、ジョナス・ウッド、リネット・ヤドム・ボアキエの3人で、いずれも1977年生まれ。ちなみにタイトルの「ジェネレーションY」とは、ジェネレーションX(1960年代から70年代なかばまでの生まれ)の次の世代という意味。それぞれ2~4点、計9点の出品だが、いわゆるペインタリーな具象の大作が多く見ごたえがある。とくに身近な日常風景をフラットに描いたジョナス・ウッドの作品は、一見ホックニーを想起させるポップな表現だが、絵画という形式に対する意識はきわめて高い。室内の壁、床、天井が織りなす垂直・水平線や、四辺いっぱいの大きな窓枠を画面の骨組みに据え、画中画や窓ガラスに映った鏡像によってイメージを重層化させる手法は見事というほかない。河原温やミニマルアートのコレクションも豊富というから、いずれ公開されるのを楽しみにしたい。
2016/01/22(金)(村田真)