artscapeレビュー

2016年02月15日号のレビュー/プレビュー

山部泰司──変成する風景画の流れ展

会期:2016/01/25~2016/01/30

ギャラリーQ[東京都]

山部は関西を拠点とする作家なので、東京で発表するのは何年ぶり、いや何十年ぶりだろう。80年代には関西の「イエスアート」や、東京と京都の芸大の交流展「フジヤマゲイシャ」の中心メンバーだった、なんて覚えてる人も少なくなったし。ぼくは一昨年の暮れに大阪で個展を見たので、いまの山水画のような風景画は知っていたけど、この1年ちょっとでまた少し変わりつつあるようだ。前回は赤褐色が大半を占めていたのに、今回は青または青灰色が増えていること、前は樹木のあいだを水が流れていたのに、今度は植物と流水が一体化しつつあるように感じること、などだ。振り返ってみれば、山部は作品そのものの魅力もさることながら、作品が少しずつ変化していくプロセス自体が魅力的なのかもしれない。数年後にはどのように変わっているか、楽しみだ。

2016/01/30(土)(村田真)

ハワイに高知城をたてた男 奥村多喜衛展

会期:2015/12/08~2016/02/10

ハリス理化学館同志社ギャラリー[京都府]

京都へ。久しぶりに同志社大の構内を歩く。近代建築が残り、日本らしからぬ、西洋のキャンパスのような雰囲気だ。目的は「ハワイに高知城をたてた男 奥村多喜衛」展。同大を卒業し、布教で向かった異国に、故郷の高知城型の教会を建設した男の生涯をたどるものだ。筆者の本でも触れたことがある建築だが、展覧会では模型も見ることができた。

写真:同志社大学ハリス理化学館

2016/01/30(土)(五十嵐太郎)

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座談会「フクシマや難民を前に、芸術に何ができるか」

会期:2016/01/30

ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川[京都府]

司会は小崎哲哉がつとめ、滞在制作中の美術家や建築家ら、チンポムの卯城竜太らとトークを行なう。社会、原発、メディア、個人としてのアーティストなど、さまざまな話題が展開し、終了後も懇親会、二次会において、日本とドイツの互いの事情で意見交換が続く。

2016/01/30(土)(五十嵐太郎)

プレビュー:KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2016 SPRING

会期:2016/03/05~2016/03/27

ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、京都府立府民ホール“アルティ”、京都国立近代美術館ほか[京都府]

6回目を迎える「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」。今回は、2016年1月にリニューアルオープンしたロームシアター京都をメイン会場に迎えるため、例年通りの秋ではなく、春に開催される。
公式プログラム計11演目は4つの軸に沿って構成。(1)「現代舞台芸術の源流を辿る試み」では、舞踏集団・大駱駝艦の近作『ムシノホシ』や、維新派の松本雄吉が演出する新作が予定されている。また、トリシャ・ブラウン・ダンスカンパニーの初期作品群のオムニバス上演が、京都国立近代美術館で行なわれる。これら1960~70年代の実験精神の延長線上として、トリシャ・ブラウンやマース・カニングハムなど、先行世代を意識して制作している振付家・ダンサーのボリス・シャルマッツ/ミュゼ・ドゥ・ラ・ダンスによる『喰う』の上演が位置づけられている。
(2)「作家たちの共同作業による新作群」では、東日本大震災と原発事故を題材にしたエルフリーデ・イェリネクの戯曲『光のない。』で高い評価を受けた、地点と三輪眞弘が再びタッグを組み、イェリネクの『スポーツ劇』の上演に挑む。また、チェルフィッチュは、現代美術作家・久門剛史との共同作業による新作『部屋に流れる時間の旅』の上演を予定。また、ボイスパフォーマー・作曲家の足立智美は、舞台音楽を子どもたちと制作するワークショップを行なうとともに、contact Gonzoとの初顔合わせを試みる。異ジャンルのアーティスト同士のコラボレーションによる、刺激的な相互作用に期待したい。
また、KYOTO EXPERIMENTは、フェスティバルの役割のひとつとして国際的な共同製作やネットワークづくりを掲げており、特に、日本で紹介される機会の少ない南米諸国の現代演劇やダンスを継続的に紹介してきた。(3)「継続的な国際交流プロジェクト」では、チリ演劇界のホープ、マヌエラ・インファンテ率いるテアトロ・デ・チレの『動物園』が上演される。「人間の展示」という主題を通して、西欧の植民地化や軍事独裁政権といったチリの複雑な歴史、異文化の混淆や衝突、観客の眼差しのあり方への鋭い批評となるのではないか。また、シンガポール出身のチョイ・カファイは、アジア諸国のダンサーや振付家へのインタビューを通して、伝統舞踊とコンテンポラリー、現代社会とダンサー個人の身体性といった様々な問題のリサーチを行なう。さらに、フランスのダンサー・振付家のダヴィデ・ヴォンパクは、「カニバリズム」という人間の極限的な行為を切り口にしたダンス作品を上演する。
(4)「デザインと建築の視点によるリサーチプロジェクト」では、デザインと建築の領域で活躍するUMA/design farm と dot architectsが京都の街のインフラを再編集して提示するリサーチプロジェクト、「researchlight」が展開される。
以上の公式プログラムに加えて、外部キュレーター2名の視点から日本の新進作家を紹介するショーケース「Forecast」も予定。劇作家・演出家のあごうさとしが「劇場における身体のあり方」という視点から選んだ3組(岩渕貞太×八木良太、辻本佳、あごうさとし)と、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館学芸員の国枝かつらが選出した音と映像を扱う3名(小金沢健人、田村友一郎、梅田哲也)の作品が上演される。さらに、フェスティバル開催期間中に京都で発表される作品を一挙に紹介するフリンジ企画「オープンエントリー作品」では、45作品が登録されている。3月の週末は、舞台鑑賞漬けになりそうだ。

公式サイト:http://kyoto-ex.jp/

2016/01/31(日)(高嶋慈)

プレビュー:PATinKyoto 第2回京都版画トリエンナーレ2016

会期:2016/03/06~2016/04/01

京都市美術館[京都府]

「版画トリエンナーレ」と冠されているが、出品作家のラインナップを見ると、写真、映像、染織を手がける作家も参加している点が興味深い。つまり、銅版画や木版、シルクスクリーンといった技法・ジャンルとしての「版画」の枠組みにとどまることなく、複製、反復やトレース、情報を複製するデジタルデータと「版」の関係性など、「版(画)」の概念の拡張が試みられているといえる。また、狭義の「版画」メディアにおいて制作する作家においても、例えば、インクの色を変えて100層以上もシルクスクリーンの版を刷り重ねることで、極小の突起に覆われた画面が角度により玉虫色に変化する小野耕石の作品や、白く不透明な蝋の上にシルクスクリーンを施した後に熱を加えることで、溶けた蝋の上でインクが流動化し、波打つように崩壊したイメージをつくり出す金光男など、支持体とインク、イメージと物質、二次元と三次元の往還といった問題への言及が見られる。さまざまなメディアを用いた「版(画)」の概念の拡張と、「版画」の可能性を探究する実験性が交差する機会になるのではないか。また、20名のコミッショナーがそれぞれ1名ずつ作家を推薦する方式が採用され、若手~中堅作家を積極的に取り挙げている点にも期待がふくらむ。

2016/01/31(日)(高嶋慈)

2016年02月15日号の
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