artscapeレビュー
2017年04月15日号のレビュー/プレビュー
岸本和彦/(有)acaa建築研究所《余白の杜》
[岩手県]
岩手の北上にて、岸本和彦による《余白の杜》を見学した。全体のヴォリュームを分解し、それぞれの隅をかき取り、斜めにつながる空間の単位を連結していく興味深い構成を持つ。また、これらの小さな平家群によって、2つの中庭を囲む。その結果、大きいのか小さいのかがわからない、不思議な距離感の空間が生じていた。つくりすぎという意見も出そうで、好みが分かれるところだが、破綻なく演出しきった感はお見事である。
2017/03/04(土)(五十嵐太郎)
蟻塚学建築設計事務所《地平の家》/伊東豊雄建築設計事務所《大館樹海ドーム》
[秋田県]
秋田の大館に向かい、蟻塚学による《地平の家》へ。ほかの作品と同様、東西方向に長い敷地で、いつもの手法を使いつつ、今度は外壁において腰まで土を埋めた中温のサンルームに挑戦している。前面と背面の庭は雪で埋まっていたが、塀で余計な視界を遮りながら、遠くの山だけを効果的に眺めに組み込む。角を丸めた、カプーア的な茶室も含め、確実にデザインを洗練させている。続いて、伊東豊雄としては早い時期の公共建築である《大館樹海ドーム》に立ち寄った。遠くから見ても印象的なシルエットである。まわりを水で囲み、ダイナミックな木造の大架構を持つ内部は完全に野球場の仕様になっていた。
写真:左3枚=《地平の家》、右3枚=《大館樹海ドーム》
2017/03/04(土)(五十嵐太郎)
福士譲/フクシアンドフクシ建築事務所《橋本の家》
[青森県]
東北住宅大賞の現地審査を再開し、仙台から青森へ。まわりにカラフルな建築があり、そうした周辺環境を反映するかのように、この住宅も独特の色を持つ。なお、近くにフクシ事務所が手がけた店舗のリノベーションも2件あった。建築写真家が暮らす《橋本の家》では、内側に凹んだ空間を半分ルーバーで覆い、リビングと中庭のプライバシーと眺めを確保しつつ、上部にサンルームを置く。青森らしく、雪や光のコントロールがテーマの住宅である。
写真:上2枚、左下=《橋本の家》、右下=フクシによる花屋
2017/03/04(土)(五十嵐太郎)
ポコラート全国公募vol.7 応募作品一挙公開!!
会期:2017/03/03~2017/03/05
アーツ千代田3331体育館[東京都]
元体育館だった巨大な空間にポコラートがびっしり並んだ。何百点、いや何千点あるんだろう。このなかから審査で選ばれた作品が「ポコラート全国公募vol.7」として正式に展示されるわけだ。ポコラートってなんだ? と問われると困るが、たぶんアートの常識にとらわれないアートらしきものだろう。それがこれだけ集まるともはや壮観を超えて、こちらのアートの常識が揺らぎ始め、ゲシュタルト崩壊を起こしそうになる。それならこれを正式の展覧会にして、あえて審査して大半を落とす必要はないとの意見もあるはず。でもこれらを見ているとやはり優劣というか、おもしろいかおもしろくないか、あるいは刺激が強いか弱いかには分けられる。ポコラート界も競争が熾烈になりつつあるようだ。
2017/03/05(日)(村田真)
ソーシャリー・エンゲイジド・アート展 社会を動かすアートの新潮流
会期:2017/02/18~2017/03/05
アーツ千代田3331メインギャラリー[東京都]
ソーシャリー・エンゲイジド・アート。訳せば「社会的につながる芸術」ですかね。長いんで「SEA」と略す。これまで「コミュニケーションアート」「関係性の美学」「アート・アクティヴィズム」「地域アート」などと呼ばれてきた、社会とかかわるアートの総称だ(でもそれぞれ少しずつ守備範囲が異なる)。出品はペドロ・レイエス、西尾美也、アイ・ウェイウェイ、スザンヌ・レイシー、丹羽良徳ら。社会とかかわるアートだから、成果物(作品)はあまり重視されず、おのずとこうした展覧会は資料展か記録展にならざるをえない。それはそれで貴重なものだが、そもそもこうしたギャラリーに収まるアートへの反動として生まれた側面もあるので、展覧会として見せるのはどうなんだろうという疑問もある。そのことも含めて、問題提起としては価値ある企画だ。
2017/03/05(日)(村田真)