artscapeレビュー

2017年04月15日号のレビュー/プレビュー

佐伯裕武+デザインホーム《七読の家》

[宮城県]

最後の10件目は仙台市内の佐伯裕武による《七読の家》へ。これも震災による建替えだった。施主が研究者ゆえに、大量の本をいかに収蔵するかがテーマである。中央の書庫に閉じ込めず、家の内壁をすべて本棚とし、さまざまな読書の場をつくり、むしろ内側をサービスのコア空間とし、高齢者対応の空間とする。壁が本棚になっているために、通常の窓は少ないが、2階に設けたハイサイドからの光が降り注ぐ。

2017/03/05(月)(五十嵐太郎)

安達揚一/(株)SPAZIO建築設計事務所《愛島の垣》

[宮城県]

名取市に向かい、安達揚一による《愛島の垣》を見学する。大型の商業施設に向き合う新興住宅地の角地ゆえに、その視線を遮るべく、レベルや断面の構成を調整したり、垣をまわして前庭を確保し、同時に遠くの山や隣の庭への眺めも獲得する。気持ちがよい吹抜けを中心に家族の場がつくられていた。階段の下には、父のこもる部屋もあった。

2017/03/05(月)(五十嵐太郎)

脇坂圭一/ヒュッゲ・デザイン・ラボ、静岡理工科大学《不均質な家~201号室リノベーション》

[宮城県]

多賀城に移動し、脇坂圭一による《不均質な家》へ。津波が近くまで押し寄せたマンションの201号室のリノベーションである。断熱を施し、廊下をなくし、収納を増やし、可動家具ユニットやさまざまな素材の実験を試みた自邸のプロジェクトだ。もっとも、脇坂は東海地方に就職したため、現在は資産価値を上げた物件を貸すか売るかを検討中らしい。

2017/03/05(月)(五十嵐太郎)

佐藤充/一級建築士事務所 SATO+《三本木の家》

[宮城県]

審査の最終日は、まず、佐藤充による《三本木の家》へ。震災で母屋が倒壊し、農家の敷地内に施主の父がプレハブをカスタマイズして暮らした住処や、各地で採取してきた木々や砕石、土管が散らばる風景にいきなり驚かされた。個人的には、エンジンを抜いた自動車などが庭に放置された、《川合健二邸》を想起させる。建築家が試みたのは、多世帯家族が住むためにシンプルな三角屋根の家をつくること。秩序と混沌が衝突する家だ。

2017/03/05(月)(五十嵐太郎)

総合開館20周年記念 山崎博 計画と偶然

会期:2017/03/07~2017/05/10

東京都写真美術館 2階展示室[東京都]

山崎博自身が発案したという展覧会のタイトル「計画と偶然」がとてもいい。山崎の写真は、基本的に被写体に依拠するのではなく、カメラとフィルムという光学装置をある条件の下で使用し、そこに発生してくる「光学的事件」をあたう限り精確に捉えることをめざしている。そこには、「計画」を厳密な手続きで実行することが求められるのだが、実際にはもくろみどおりに事が運ぶことはまずない。代表作といってよい、海面から天空に躍り出る太陽の軌跡を、ND(減光)フィルターを使って長時間露光で写しとめた「HERIOGRAPHY」のシリーズにしても、天候、季節、雲の有無、海面の状態などによって、どんな画像が定着されるかは「偶然」に身を委ねるしかない。つまり「計画と偶然」という、おそらく写真表現のあり方を最も本質的に指し示す言葉の射程に、山崎の45年以上にわたる写真家としての軌跡が、すべて含み込まれているのだ。
今回、東京都写真美術館で開催された、美術館レベルでは最初の大規模展となる本展には、初期から近作まで、211点以上の作品が、ROOM1からROOM7まで、7つのパートに分けて展示されていた。それを見ると、きわめて多様なアイディアに基づく写真群であるにもかかわらず、揺るぎないものの見方が貫かれているのがわかる。自宅の窓からの眺めをさまざまな手法で撮影した「OBSERVATION 観測概念」(1974)と、最新作の「UNTITLED(水のフォトグラム)」(2017)の両方に、自分の手が写り込んでいるのが象徴的だ。山崎には、あくまでも自分の身体の位置にこだわりつつ、写真を媒介にして現実世界のあり方を観測・探究しようとする一貫した姿勢がある。あらためて、その弛みない写真家としての歩みを、じっくりと見直すことができた。
展示構成については、一言いいたいことがある。ROOM1からROOM7までの区分と、作品の並べ方とが、特に後半になると混乱してくる。各作品にはキャプションがついてないので、観客は入口で渡されるリストの番号を頼りに見ていかなければならないのだが、その番号順に作品が並んでいないので、より混乱に拍車がかかる。必ずしも年代順に展示する必要はないが、もう少しすっきりと会場を構成してほしかった。

2017/03/06(月)(飯沢耕太郎)

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