artscapeレビュー

2010年01月15日号のレビュー/プレビュー

『パフォーマンスライブ』(HARAJUKU PERFORMANCE+)

会期:2009/12/22~2009/12/23

ラフォーレミュージアム原宿[東京都]

8組出演。冒頭のOpen Reel Ensembleがともかく最高だった。ターンテーブルのように改造したオープンリールをスクラッチ(?)させると、聴いたことのない「ゥゥィィーン」みたいなノイズが心地よく炸裂した。背中を向け横並びの機材に向かうメンバーは、そんなノイズをじつに楽しげに実際ニコニコしながら、操る。こっちみて、「これ、スゲーっしょ!」みたいに機材を指さしたりする。音楽のセンスはもとより、そうした徹底的に明るいパフォーマンスに、なんだか今後の表現のあるべき姿を見たような気がした。そう、前向きに。ただただ、ポジティヴに。泣くほど感動した彼らの後、contact Gonzoは、華奢な女の子ドラマーが舞台中央で猛烈に激しく観客に(またもや)背中を向けて楽器をブッ叩きまくる周りで、希有な瞬間目指して肉体をブッ叩きぶつけ合う。彼らはいつもどこかに新趣向を入れている。柴幸男の作品もよかった。五人姉妹(?)+母親が朝食の二分くらいを過ごすその様を、ひとりの役者が1人ずつ演じてゆく。2人目3人目と演じる役を変えてゆく、そこに前回前々回の音声が重ねられ会場に流れる。すると次第に場面の全体像がわかってくる。次第に前回前々回の芝居がなにを意味していたのかわかってくる。消えてしまったひとり1人の心情を組み合わせるのは観客ひとり1人の心の中でだ。きわめてミニマルで形式的なアイディアを凝らすことで、演劇の可能性がぐんと広がった。明らかに演劇の未来を示唆する作品だった。と、ここまではよかったのだが、後半は見ながらどんどんテンションが下がってしまった。ぼくはどのダンサーたちにも魅力を感じられなかった。形式や機材、楽器に縛られることでじつは身体は自由になる。むしろそうしたものから自由な身体が不自由に見える。

2009/12/23(水)(木村覚)

オノ・ヨーコ「A HOLE」

会期:2009/12/05~2009/12/25

ギャラリー360°[東京都]

穴が空き、ひびの入ったガラス板が10数枚。銃弾を撃ち込んだものだ。ギャラリーの中央に、やはり穴とひび割れの入ったひときわ大きなガラス板が自立している。これを見てハタと思い出すのがマルセル・デュシャンの「大ガラス」だ。そういえば「大ガラス」は運搬中に偶然ひびが入ってしまったのだが、デュシャンはがっかりするどころか「これで完成した」と喜んだとか。これらのガラスの下方には「A HOLE GO TO THE OTHER SIDE OF THE GLASS AND SEE THROUGH THE HOLE(穴 ガラスの反対側に行き、穴を通して見ること)」と記されている。これを読んでハタと思い出すのが『鏡の国のアリス』(原題は"Through the Looking-Glass")だ。そういえばヨーコの友人だった東野芳明は著書『マルセル・デュシャン』の各章冒頭に、『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』からの引用文を掲げていたっけ。そういえばジョン・レノンもルイス・キャロル並のノンセンスな言葉遊びが好きだった。そしてハタと思いいたるのが、ジョン・レノンは銃弾に倒れたということ。この作品は迷宮のような連想ゲームにわれわれを誘う。

2009/12/24(木)(村田真)

吉田翔 個展 INSPHERE──つつみ込まれるように

会期:2009/12/05~2009/12/26

イムラ アート ギャラリー[京都府]

白と黒のみだけで描く吉田翔の新作展。モノクロという難しい表現で、ぼんやりと浮かび上がる夜の街の風景、花などを一貫してそのモチーフにしてきたが、彼のテクニックの目覚ましい向上は、技法という点だけでなく絵の具や支持体をはじめとするそのマチエールの熱心な研究にも裏打ちされていると感じた。自らの活動にはさほど関係のないように思われる伝統産業や技術の歴史にも詳しい。そういった面でも彼よりも若い作家の制作活動を牽引する存在になりそうで頼もしい。いろんな意味でこれからの活動の展開が楽しみな作家だ。頑張ってほしい。

2009/12/25(金)(酒井千穂)

菅原健彦 展

会期:2009/11/15~2009/12/27

練馬区立美術館[東京都]

日本画家、菅原健彦の回顧展。卒業制作の作品から近作まで40点あまりの作品が発表された。モチーフは都市の市街地や廃墟、自然の桜や渓谷などさまざまだが、それらが荒々しいストロークによって描き出されて、きわめて密度の濃い画面を構築している点は共通している。日本画的なモチーフと技法にもとづきながらも、キーファーのような表現主義的な色合いを兼ね備えた画面といってもいい。その躍動感や疾走感が都市や自然の生態を効果的に表わしていた点は評価したいが、本展のために制作された《雲龍図》と《雷龍図》はどういうわけかトーンダウンしていた。密度の薄い画面は、たんに図像を再現しているようにしか見えず、しかもそのイメージ性もきわめて貧弱である。これまでの作品の迫力が圧倒的だっただけに、弱さが際立ってしまっていたようだ。

2009/12/25(金)(福住廉)

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豊原康久「La Strada」

会期:2009/12/17~2010/12/26

アイデムフォトギャラリー「シリウス」[東京都]

豊原康久は1994年の第19回木村伊兵衛写真賞の受賞者。とはいえ、一般的にはあまり馴染みのある写真家とはいえないだろう。知名度の高い森村泰昌らをおさえての受賞も、やや「意外な」という雰囲気で受け止められたと記憶している。
だがそれから15年あまりを経て、新宿のアイデムフォトギャラリー「シリウス」での新作展を見ると、豊原が淡々と路上スナップの精度を高め、「なんでもない光景からにじみ出るような揺れや機微」を捕獲する技術をここまで鍛え上げてきたことにある種の感動を覚えた。今回の展示の作品はイタリア各地で撮影されたものだが、広角の24ミリレンズで、移動しながら路上の光景を多層的に把握していく手法そのものは、日本で撮影されたものとほとんど変わりはない。ただ、たとえば恋人らしきカップルを撮影した場面の背後に、連なり、重なりあって見えてくる人びとの姿が、よりドラマチックで見る者の好奇心を刺激する。当然といえば当然だが、日本よりもイタリアの方が路上における演劇性が高いということなのだろう。なおタイトルの「La Strada」は「The Street」の意味。フェデリコ・フェリーニの名作映画『道』(1954)の原題でもある。

2009/12/25(金)(飯沢耕太郎)

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