artscapeレビュー

2010年01月15日号のレビュー/プレビュー

平野暁臣『空間メディア入門』

発行所:イーストプレス

発行日:2009年12月

著者は建築出身の空間メディアプロデューサーである。岡本太郎のお別れの会、六本木ヒルズのアリーナのイベント、リスボンやタイにおける展示企画、「明日の神話」再生プロジェクトなどを手がけるほか、岡本太郎記念館の館長をつとめている人物だ。本書は、全体を「空間で語る」「空間を活かす」「空間に求める」の三部構成としつつ、細かくは見開きの単位による87のトピックに分けて、空間づくりの方法論を講義形式で語っている。いずれも抽象的な理論というよりも、彼が実感した現場の教えをもとにしており、説得力をもつ。イベントという場をつくるにしても、それが空間と結びつくのは、建築を最初に学んだからなのだろう。インターネットの時代に、現実の空間メディアがどうあるべきかを考えるうえでも示唆に富む。

2009/12/31(木)(五十嵐太郎)

栗生明+渡辺真理 編『現代建築ガイドブック 千葉市』

発行所:建築資料研究所

発行日:2009年12月

千葉市優秀建築賞の1988年から2008年までの受賞作134件を紹介したガイド。地域ごとの建築賞はいろいろあるが、なかなか一般に周知されない。そうした意味で、本という形式で賞の制度を外部に向けて提示していくのは良い試みだと思う。栗生明のテキストは、千葉市における建築の歴史のほか、この賞の経緯や狙いも説明している。巻頭は、写真家の小山泰介さんの撮りおろしである。ケンチクのいわゆる竣工写真とは違う、都市の表面をスキャンし、異世界を出現させていくような作風が、ここでも展開している。ただし、MAPはもうちょっと使いやすいと、実際に見学に行くときに助かるのだが。

2009/12/31(木)(五十嵐太郎)

松田行正『1000億分の1の太陽系 400万分の1の光速』

発行所:牛若丸

発行日:2009年12月

『線の事件簿』に惚れ込んで以来、いつかは仕事をお願いしたいと思っていた松田行正には、筆者が編集委員長となったことを契機に、二年間『建築雑誌』2008年1月号~2009年12月号のデザインを担当していただいた。印象的な色彩の表紙で覚えている人も多いだろう(なお、1月22日から28日まで、建築会館の1階ギャラリーにて、表紙の展覧会を開催予定)。彼の事務所は、こうした依頼とは別に、好きな本を自主的に制作しており、いつも年末になると、目を楽しませてくれる、実験的な本を発表している。今年は、なんと1p=1250km×600ページというヴォリュームによって、太陽系の大きさを表現した。すなわち、三次元の模型ではなく、厚さ5cmの書物に変換された天球儀である。その結果、ひたすら線だけのページが続き、カッコいい。

2009/12/31(木)(五十嵐太郎)

Arch Daily

建築の情報メディア環境が変わりつつある。そのひとつとして、ブログ形式のウェブマガジンが存在感を強めている。2005年1月にオランダのハンス・イベリングスを編集長として『A10』が生まれたとき、東欧を含むヨーロッパ全体を包括的に捉えた、安価で革新的な建築雑誌だと思って注目した。それからちょうど5年経ち、状況はさらに変化した。チリの建築家David Basultoがエグゼクティブ・エディターを務めるArchDailyは、2008年3月に開始したばかりのブログ形式の建築情報サイトである。すでに2400件を超えるポストがあり、一日数度新しい情報が更新されている。一つのポストには、相当数の写真・図版が載っている。twitterやfacebook、flickrなどとも連動する仕組みがあり、さらに活発なコメントが寄せられることによってサイトが活性化している。この情報量とスピード感に、一時は建築がアイコン化されている元凶があるのかと思ったのであるが、もう少しじっくり眺めてみると、表面的なアイコン性はむしろサイトのデザインと構造から来るものであり、その背後にはかなり多様な情報が込められていることも見えてきた。同様の趣旨を持ったサイトは他にも幾つかあり、建築の伝達方法はこれらのサイトによって少しずつ変化してきているように感じている。

URL:http://www.archdaily.com/

2009/12/31(木)(松田達)

正延正俊─1960年代を中心に─

会期:2010/01/16~2010/02/20

ギャラリーヤマグチクンストバウ[大阪府]

正延正俊(1911~1995)は具体美術協会結成に関わった作家で、すべての「具体展」(第1回/1955~第21回/1968)に参加した稀有な存在である。具体メンバーの多くがアクションペインティングやパフォーマンス等の実験的作風に傾斜していくなか、彼は一貫してペインティングにこだわり続けた。それゆえという訳でもなかろうが、現在では知る人ぞ知る存在になってしまった。本展はそんな正延の再評価を試みるもの。芦屋市立美術博物館学芸員の加藤瑞穂をキュレーターに起用し、1960年代の作品を中心に主要作品を紹介。彼の大規模な個展としては実に45年ぶりの開催となる。

2009/12/31(木)(小吹隆文)

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