2019年09月15日号
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artscapeレビュー

島尾伸三『じくじく』

2015年02月15日号

発行所:USIOMADA

発行日:2015年2月1日

2014年9月に開催された個展「Lesions/じくじく」の時に予告されていた同名の写真集がようやく刊行された。展覧会では『野生時代』に2007年から連載していたシリーズの、ごく一部が展示されていたのだが、今回の写真集で、一筋縄では捉えきれないその全体がはじめて見えてきた。
今さらながら、強く興味を喚起されるのは、島尾の写真とそこに付された言葉(テキスト)との関係である。島尾の父が、作家の島尾敏雄であることはよく知られているが、軟体動物のように伸び縮みする「です・ます」調で綴られる彼の文体は、父のそれとも明らかに違っている。そこで語られるのは身辺雑事としかいいようがない出来事の集積であり、しかも常に彼自身の感情や生理が、まさに「じくじく」と絡みついている。たとえば、身近にある時計を撮影した「時計」のパートのテキストには「頭を左右に振ると首がミシミシいいます」「耳元で血管が収縮しているらしいジンジンという音」「聞こえるはずのない手足の血管が、プクプクという音を立てながらピクピク動いていたり」といった表現が頻出する。
だが、そのような低く、薄く伸び広がっていくような文章を読み、その横のほんのりと微光に照らし出されているような写真(テキストと写真にはあまり直接的な関係はない)を眺めていると、次第次第に島尾の描写に引き込まれ、包み込まれていくように感じてくる。その、半透明の糸にぐるぐる巻きにされて、繭か蛹に化してしまうような感触には、どこかうっとりとさせられる気持ちのよさがあるのだ。「雲」「審判の日」「墓参」「駅舎」「死者への旅」「声」「時計」「街気」「ネコの死」「温泉」「線路の輝き」「敵意」「顔」「悪魔の家」「祈り」「空虚の街」「電灯」。全17章を辿り終えたとき、上質の短編集を読み終えたような気がしてきた。

2015/01/12(月)(飯沢耕太郎)

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