2019年11月15日号
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artscapeレビュー

渡辺兼人写真展「半島/孤島/水無月の雫」

2015年02月15日号

会期:2015/01/16~2015/02/14

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

ツァイト・フォト・サロンは2014年9月に東京・日本橋から京橋に移転してリニューアル・オープンしたのだが、その第1回目と2回目の展示は、それぞれ写真作家と美術作家のグループ展だった。個展のスタートが誰なのかということに興味があったのだが、展示を見て、それが渡辺兼人だったことに納得した。渡辺は1982年以来、ツァイト・フォト・サロンで8回にわたって個展を開催しているという。ただし、最後の個展である2004年2月~3月の「陰は溶解する蜜蝋の」から11年ほど間を置いているので、ひさびさの展示ということになる。その間に写真を巡る状況は大きく変化したが、そんな中で彼の作品の見え方も違ってきているように思えた。
渡辺は基本的に、純粋に「写真そのもの」を志向する作家といえるだろう。その「写真至上主義」というべき作風が、デジタル全盛の現時点で逆に燻し銀の輝きを発しているように見えるのだ。今回の出品作は「半島」(16点、1997年)、「孤島」(6点、1999年)、「水無月の雫」(9点、1995年)の3シリーズ。それぞれ、樹木や草(「半島」)、建物(「孤島」)、海と空(「水無月の雫」)を写しているのだが、渡辺が被写体に強い関心を持っているわけではなさそうだ。むしろ、6 x 6、6 x 7、6 x 9のフォーマットの画面(印画紙は四切あるいは大全紙)に、モノクロームのフォルム、明暗、質感を、どのようにコントロールしておさめていくのかに全精力が傾けられている。そして、それは視覚的な画像情報としてほぼ完璧なレベルにまで達しており、多少なりとも写真作品を見続けてきた者なら、誰もが感嘆の声を上げてしまうだろう。
渡辺は長く東京綜合写真学校で講師を勤めているのだが、同校の学生には彼の影響を強く受けて「写真至上主義」の作品作りに向かう者もかなりいる。だがそれは諸刃の剣で、生半可な技術力ではその高みに追いつくのがむずかしいだけでなく、マンネリズムの袋小路に陥ってしまいがちだ。実は渡辺自身は、そのような隘路に入り込むのを、巧みに回避する術を心得ているのではないかと思う。たとえば、とても的確な、だが時には過度に文学的に思えるタイトルの付け方も、その一つだろう。彼が今後、作風を変えていくとはとても思えないが、新作をぜひ見てみたい。極上の眼の歓びを味わわせてくれるはずだ。

2015/01/24(土)(飯沢耕太郎)

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