artscapeレビュー

広瀬勉「鳥渡(チョット)・3」

2011年01月15日号

会期:2010/12/03~2011/12/09

M2ギャラリー[東京都]

広瀬勉もキャリアの長い写真家である。彼は1980年代から「型録」という個人写真雑誌を刊行し、同名の写真展を開催し続けてきた。今回M2ギャラリーで開催された「鳥渡(チョット)・3」は、39回目の「型録写真展」になる。
以前は手当り次第に被写体を みとっては、そこら中に撒き散らしたような、コントラストの強い荒っぽいスナップが並んでいたような記憶がある。その雑然とした印象は変わらないのだが、濃いグレートーンがじわじわと目に食い込んでくる写真を眺めているうちに、奇妙な感動を覚えた。広瀬もまた原芳市と同様に、自らの生の起伏と写真を撮影する行為とをできうる限り同調させようとしている。つながっている二匹の犬、不可思議な動作をしている路傍の人物、広瀬の代名詞というべき穴あきブロック塀(彼には『塀帳』というブロック塀の写真集もある)などの写真の合間に、女性のヌードや下着姿のポートレートが挟み込まれる。そのたたずまいが、何ともエロティックで心揺さぶるものがあるのだ。40回近い写真展をくり返しているうちに、彼の写真の表現力の水位が相当に高まってきているということだろう。
原芳市も広瀬勉も、主に写真家たちが自分たちでスペースを借りてギャラリーを運営する「自主運営ギャラリー」での展示を積み重ねて、表現を成熟させてきた。写真家たちの自由な発表の場としての「自主運営ギャラリー」が果たしてきた役割の大きさを、もう一度きちんと評価するべきだと思う。

2010/12/05(日)(飯沢耕太郎)

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