artscapeレビュー

泉太郎 展 こねる

2011年01月15日号

会期:2010/11/02~2010/11/27

神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]

泉太郎がまたやった。というのも、一昨年の「日常/場違い」(神奈川県民ホールギャラリー)に続き、「クジラのはらわた袋に隠れろ、ネズミ」(アサヒアートスクエア)、「捜査とあいびき」(ヒロミヨシイ)、「入り口はこちら──何が見える?」(東京都現代美術館)と国内で立て続けに発表した勢いも冷めやらぬうちに、また大規模な個展を成功させたからだ。映像を発表する現場で撮影した映像をその場で見せるという芸風はそのままに、この会場の巨大な、しかしあくの強い空間に気圧されることなく、存分に使い切った展示がすばらしい。例えば「ECHOES」(ZAIM)や「日常/場違い」のように、かねてから泉の本領は隙間やデッドスペースを映像インスタレーションによって鮮やかに生き返らせる術にあると思っていたが、近年の泉は与えられた広大な空間を使い倒す才覚も身につけたようだ。神奈川県民ホールギャラリーの、あの無駄に長大な空間を小屋を回転させる道のりとして活用するところなどは、思わず息を呑むほどだ。このセンスは泉独自の視点や空間構成力にもよるのだろうが、その一方で彼がつねに泉太郎という身体によって映像と現場を直結させていることにも由来している。人の身体が生きる空間でないかぎり、その空間が生き生きとするはずもない。この当たり前の事実を忘れているのが、フォトジェニックなだけの彫刻作品で広大な空間を埋めようとして無残に敗北しがちな昨今の現代アーティストである。泉の強さは、美術館の権威的で非人間的な空間であっても、まるでオセロの白と黒を反転させるかのように、いとも簡単にその空間を甦らせるところにある。死んだ美術館を蘇生させるには、泉太郎を呼んで遊ばせるのがいちばんよい。

2010/11/26(金)(福住廉)

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