artscapeレビュー
和栗由紀夫+好善社『肉体の迷宮』
2011年01月15日号
会期:2010/12/03~2010/12/04
日暮里サニーホール[東京都]
美学者・谷川渥の著書『肉体の迷宮』からタイトルがとられた本作は、なるほどスクリーンに映写されるさまざまな映像(ベルメール、デジデリオらの絵画作品)などから見ても、また舞台上のシーンを鑑みても、本書に端を発する作品であることは明瞭だ。とはいえ、生真面目に美学書の各章を舞踏譜にみたてたというよりも、そこからえた刺激をもとに振付家の自由な発想からつくられているのも明らかだ。構成はシンプル。基本的に、関典子のソロもまじえた女性たちの群舞と和栗由紀夫のソロが交互に並べられ、男性性と女性性が強く意識されている。女性のダンスには舞踏の要素が希薄。その分、和栗の「舞踏化」されている奇っ怪な身体のありようが際立って見えた。土方巽の最初期の直弟子であった和栗。彼の身体には舞踏の方法論が染みこんでいて、爬虫類かなにかに部分的に変容してしまったかのように、ちょっと動き出せば、彼の肉体の各所から、その異様さがくっきりと滲み出てくる。たとえば「ダンディな素肌に白いサマースーツと麻の帽子」といった衣装で過日(1970年代)の沢田研二のように気取っているシーン。気取った身振りの最中、体の内側では沸騰する水のようになにかが騒がしく蠢いていて、「常態化した痙攣」とでもいうべき運動が断続的に身体の各所で露呈している。変な(キャンピーな)ダンディズムと舞踏らしい動き(キャンピーに見えてしまうのは、世代差によるものか?)。真面目なようでふざけているようで、狙いのようでもあり天然のようでもある。アナクロにも映るが現代的に見えなくもない。延々と裏をかいて異常な存在であり続ける、なんとも舞踏らしい公演だった。
2010/12/03(金)(木村覚)