artscapeレビュー

生誕百年記念展──写真家・名取洋之助

2011年01月15日号

会期:2010/11/30~2011/12/26

JCIIフォトサロン・クラブ25[東京都]

名取洋之助は1910年に生まれ、62年に亡くなっている。ということは、享年52歳ということで、あらためてそのことに気づいて愕然とさせられた。彼が生涯に成し遂げたさまざまな仕事、日本工房(1933~39年)、国際報道工芸(1939年~45年)、『週刊サンニュース』(1947~49年)、『岩波写真文庫』(1950~59年)などと比較して、その没年齢が余りにも若すぎるように思えるからだ。20歳代前半から、写真と編集の世界を息せき切って走り続けたということのあらわれだろう。
今回のJCIIフォトサロン・クラブ25での「生誕百年記念展」には、戦前のドイツ、アメリカ、朝鮮、満州などの写真から、戦後の中国・麦積山、最晩年のヨーロッパ・ロマネスク彫刻の写真まで、代表作150点余りが展示されていた。その中には年上の妻、エルナ・メクレンブルクを撮影した初々しいポートレートも含まれている。名取はいわゆる「うまい」写真家ではない。中国の仏教遺跡、麦積山石窟の写真を、3日間で3000カット撮影したというエピソードが示すように、とにかく大量に集中して撮影し、そこから雑誌記事や写真集にふさわしいカットを選び出していく。その基準は、明解でわかりやすい「模様的な」構図、感情移入をしやすい人物の表情、動きのあるいきいきとした雰囲気などである。写真を視覚的なコミュニケーションの手段として、いかに効果的に使いこなしていくのかという姿勢が、徹頭徹尾貫かれているのだ。
このような効率一点張りの姿勢には、むろん彼の生前から批判があった。だがいま見直してみると、当時のフォト・ジャーナリズムを支えていたポジティブな楽観主義が、むしろ好ましいものに思えてくる。名取も若かったが、日本の写真表現それ自体が「青春時代」のまっただ中だったということだろう。

2010/12/09(木)(飯沢耕太郎)

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