2022年12月01日号
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artscapeレビュー

2012年02月15日号のレビュー/プレビュー

古賀絵里子「浅草善哉」

会期:2012/01/20~2012/02/20

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

古賀絵里子の「浅草善哉」のシリーズは、浅草で長年喫茶店を営んでいた老夫婦を、2003年から撮り続けた労作だ。中村はなさん(旧姓平田)は1912年、中村善郎さんは1921年生まれで、1955年から西浅草二丁目で喫茶店「あゆみ」を経営していた。古賀が浅草三社祭で偶然二人にあったころには店は閉じられ、晩年は二人とも病気がちだった。2008年に義郎さん、2010年にはなさんが相次いで逝去。古賀が撮影した二人の写真が残された。このシリーズは、2004年に銀座・ガーディアンガーデンで一度展示されているが、今回青幻舍から同名の写真集が刊行されたのをきっかけに、リバイバル展が開催されたのだ。
古賀の写真には、この種のドキュメンタリーにどうしてもつきまとう「こう見なければならない」という強制力が感じられず、穏やかで、開放的な雰囲気が備わっている。いつも寄り添うように近くにいる二人の存在のかたちが、柔らかに定着されていて見ていてストンと胸に落ちる。また、昔の二人が写っているスナップ写真の複写が効果的に挿入されていて、過去と現在の時間がゆるやかに混じりあうのもいい。ただ、このシリーズはやはり旧作であり、むしろ古賀がこれから先どんなふうに作品を発表していくのかが気になった。その意味では、会場を区切って展示されていた「一山」という6×6判、カラーのシリーズが注目される。高野山の四季を2年半にわたって撮り続けているものだが、そろそろひとつのかたちにまとまっていきそうな気配を感じた。
展覧会の会場構成は、『魯山』店主の大嶌文彦が行なった。書、器、鏡、錆の浮き出た家具などを配置した趣味のいいインスタレーションだが、少し要素を詰め込み過ぎて、やや写真が見づらくなっているのが残念だった。

2012/01/25(水)(飯沢耕太郎)

「ルーヴル美術館からのメッセージ:出会い」記者発表

会期:2012/01/26

フランス大使館[東京都]

パリ・ルーヴル美術館の作品が初めて東北の地で見られることになった。これはルーヴル美術館から3.11の被災者に向けた連帯のメッセージで、24点の作品を貸し出し、岩手県立美術館(4/27-6/3)、宮城県美術館(6/9-7/22)、福島県立美術館(7/28-9/17)の被災3県の美術館を巡回させる計画。作品は古代オリエントの彫刻、ギリシャのレリーフ、イスラム美術、ルネサンスの工芸品、バロック絵画など時代もジャンルもさまざまだが、すべて複数の人物(や神)を描いたもので、「出会い」がテーマとなっている。さすがフランス、シャレたことやってくれるじゃん。まあ原発事故の直後から在日フランス人を本国に引き上げさせた国だからね。原発大国だけに事故には敏感に対応せざるをえないのかも。福島県立美術館の人がいった「震災でもなければ、ルーヴル美術館と福島県との出会いなど考えられなかった」との発言には苦笑。

2012/01/26(木)(村田真)

佐藤信太郎「東京|天空樹 Risen in East」

会期:2012/01/13~2012/02/25

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

写真集と展示の違いが際立って見える作品があるが、佐藤信太郎の「東京|天空樹 Risen in East」はそのいい例だろう。青幻舎から刊行された写真集を見たときには、前作の『非常階段東京─TOKYO TWILIGHT ZONE』(青幻舎、2008年)の延長線上の仕事に思えた。ところが、フォト・ギャラリー・インターナショナルの展示を見て、遅まきながら、その方法論自体が大きく変化していることに気づかされた。
まず最大で3,139×311ミリという画面の大きさが圧倒的だ。横が極端に長いパノラマサイズのプリントは、当然ながらデジタルカメラの画像をつなぎあわせたものだ。最大30枚以上の画像が使われているという。ということは、佐藤は4×5判の大判カメラを使っていた前作から、撮影とプリントのシステム自体を完全に変えてしまったことになる。結果として、ある特定の時間(黄昏時)、特定の眺め(ビルの非常階段から)にこだわっていた前作と比較して、表現の幅がかなり広がりをもつものとなった。それだけでなく、複数の時間、複数の視点がひとつの画面に写り込むことによって、あたかも絵巻物を見るように、伸び縮みする視覚的体験が生じてきている。
その中心に写り込んでいるのが、言うまでもなく建造中の東京スカイツリーである。この「天空樹」の出現は、誰もが気づかざるをえないように、東京の東半分の地域の眺めを大きく変えつつある。特に浅草の街並みや墨田区京島の戦前から残っている古い長屋などとくっきりとしたコントラストを描き出すことで、新たな景観が生み出されようとしている。まさに都市の生成途上の姿を捉えたドキュメントとしても、意味のある仕事と言えそうだ。

2012/01/26(木)(飯沢耕太郎)

試写『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』

会期:2012/01/27

ブロードメディアスタジオ[東京都]

1994年に南仏で発見されたショーヴェ洞窟の壁画は、約3万2千年前に描かれた世界最古の絵とされている。壁画保護のため入場を制限しているこの洞窟に、初めて3Dカメラによる撮影を許可されたのがヴェルナー・ヘルツォーク監督だ。この映画のおもしろさは、もちろん第一に洞窟壁画を3D映像で体感できること。洞窟壁画には凹凸がある、というより壁の凹凸に沿って描かれているのに、われわれが目にすることができるのは図版だけなので、それを実感できなかった。この映画では、とくに後半に思うぞんぶん絵の立体感(この矛盾に洞窟壁画の秘密がある)を体験することができるのだ。第二のおもしろさは、洞窟に入るのに撮影機材やスタッフの人数まで厳しく制限されたため、とくに前半では洞窟に入って撮影するというみずからの行為自体をドキュメンタリーの対象にせざるをえなかったこと。つまり、メタドキュメンタリーという自己言及的な事態を引き起こしているのだ。そして第三は、これを見る観客がいる暗い映画館内と、映像内の洞窟空間とがひと連なりにつながって感じられるということ。とくに試写室という狭い密室空間ではなおさら自分が洞窟内にいると感じられる。ともあれ、洞窟壁画ファン(少ないだろうけど)には垂涎の映画であることは間違いない。[TOHOシネマズ日劇、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで、3週間限定 春休み特別ロードショー(3/3~)]

2012/01/27(金)(村田真)

北川貴好「フロアランドスケープ──開き、つないで、閉じていく」

会期:2012/01/14~2012/02/05

アサヒ・アートスクエア[東京都]

あいちトリエンナーレ2010や横浜トリエンナーレ2011に出品した北川も、武蔵野美術大学の建築出身のアーティストである。穴、水、植物を使った、これまでの集大成的な作品だった。ただし、屋外だとラディカルな手法が、室内だと少し違う意味をもつように思えた。個人的には、2フロアを展示に使ったことで、おそらくバックヤードで普段は見られない階段を体験することができたのがよかった。それにしても、しばらく訪れていなかったが、スタルクのスーパードライホールは強力な存在感を放つ。背後に見える東京スカイツリーのように一番高くなくても、純粋にかたちと色だけで、一度見たら忘れられないインパクトをもっている。ここまできたら、バブル期の遺産として長く残って欲しい。しばらく、日本はこういうデザインをつくらなそうだし。

2012/01/27(金)(五十嵐太郎)

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