artscapeレビュー
2009年11月15日号のレビュー/プレビュー
和田円佳「トラベリング0」
会期:2009/10/31~2010/01/03
Porto Gallery[神奈川県]
日本3大ドヤ街のひとつ、横浜の寿町。その3畳一間のドヤ(“ヤド”の逆で簡易宿泊所のこと)も住人の高齢化にともない、低予算旅行者のためのホステルに転換するところも出てきた。そのホステルのひとつ、ポルトがロビーや廊下をギャラリーとして開放し作品を展示している。わざわざこんなところまで作品を見に来る人はいないだろうし、また監視人がいるわけでもなく、恥はかき捨てる旅行者が出入りする場所だから、きわめてリスキー。いや、ここで展覧会をやらないかといわれて見に来たんです。
2009/10/31(土)(村田真)
過去に存在した(美術教育の)未来──木水育男の児童画教育の例
会期:2009/10/28~2009/11/08
木水育男という方を私は知らなかったが「我が家の玄関に子どもの絵を」と提唱し続けた教育者で、展覧会は、その50年余り前の美術教育と児童画の例を展示するという内容。海辺の地域の人々の仕事の様子、学校生活、針仕事をする母親など、日常の一コマを観察しながら描いた子どもの作品は、どれも丁寧に描き込まれていてじつに生々しい。こんなにも嬉しさや切なさなどの感情が画面ににじみ出るものなのかと思い知らされる味わいがあり引込まれていくものが多かった。急に風が冷たくなった日に見たせいもあるだろうが、冷たい指先が温まっていくような感覚を覚えて打たれる展覧会だった。
2009/10/31(土)(酒井千穂)
笹倉洋平 展「ツタフ」
会期:2009/10/27~2009/11/08
neutron kyoto[京都府]
笹倉洋平の新作展。笹倉の作品は採光や照明、展示空間の特徴などによって印象がまったく違ってくるため、展示がたいへん難しいと思われるが、今展でも時の経過や変化の絶えない自然の事象を連想させる圧倒的な線の力を見せていた。縦横無尽に黒い線が画面を駆け巡る、一見極めて自由奔放なイメージの表現だが、至近距離で見ると、不気味なほど神経質で繊細な描写がうかがえるのが面白い。止まることなく脈々と体内をめぐる血管のようでもあり、キラキラと水面が輝く海の光景のようでもあり、いずれにしろ触れられない脆弱さと圧倒的な力強さが混在する。京都に続き、東京でも新作展を開催。次はどのような空間になるのかとても気になる。
2009/10/31(土)(酒井千穂)
カタログ&ブックス│2009年11月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
DEEP IMAGES──映像は生きるために必要か
CREAM ヨコハマ国際映像祭の公式カタログ。映像が氾濫し、単に鑑賞することだけでなく、大衆が映像を利用する側へと変わりつつある現代で、表面的に捉えるのではなく、より深い意味での映像を再構築するため、映像作家や、さまざまな地域の気鋭の論考を紹介。
Studies in Organic Kengo Kuma & Associates
GALLERY間での展覧会に合わせて出版された書籍。隈研吾の最新プロジェクトからコンペ案、初期の代表作まで36作品を「有機的」という観点から編集されている。
日本写真集史 1956-1986
60年代から70年代にかけての写真黄金期につくられた歴史的に重要な写真集から、希少本や私家版など含め、多種多様な60作に及ぶ写真集を、写真誌の研究者でもあり、写真コレクターでもある金子隆一が紹介。いまではほとんど見ることが不可能な写真集の画像やそれに関するエピソ─ドも掲載されている。
YCAM WORKSHOPS
山口情報芸術センターでの展覧会の関連企画や教育的な観点から行なわれたワークショップのカタログ。合計6冊のカラフルな冊子で構成され、それぞれにワークショップの構想、会場構成、ワークショップ修了の分析やコメントなどがまとめられている。
2009/11/17(火)(artscape編集部)