artscapeレビュー
2009年11月15日号のレビュー/プレビュー
ジュリアン・オピー展
会期:2009/10/16~2009/11/14
SCAIザ・バスハウス[東京都]
シンプルな輪郭線とフラットな彩色のポートレートだが、困ったことに登場人物が歩いたりまばたきしたり動くのだ。せっかく動くものを静止させた絵なのに、それを再び動かすとは。そこまでやるなら、10年20年たったら人物が老け込んでいくようにプログラムされた肖像画もつくってほしいところだ。
2009/10/23(金)(村田真)
異界の風景・ドローイング
会期:2009/09/29~2009/11/01
東京藝術大学大学美術館[東京都]
藝大油画科の教員14人が「異界の風景」をテーマに、自作と藝大コレクションから選んだ作品を組み合わせて展示している。なぜ「異界の風景」なのか、なぜ藝大のコレクションから選ぶのかよくわからないし、また、それとは別に「異界の風景」をテーマにしたコレクション展も行なわれているので混乱してしまう。でも、見るほうはそんな主催者の思惑どおりに見ちゃいないから安心してね。教員の作品では、O JUNと齋藤芽生のいずれも藝大らしからぬ絵画が異彩を放つ。コレクションとの組み合わせでは、佐藤一郎の滝の絵と山本芳翠の《秋の奥日光》(ただし藝大ではなく上野精養軒のコレクション)の、1世紀を隔てたコンビネーションが見ごたえあった。
2009/10/23(金)(村田真)
荒木経惟「広島ノ顔」
会期:2009/10/10~2009/12/06
広島市現代美術館[広島県]
「アラーキーと写真」というレクチャーをするために広島市現代美術館に行ってきた。同館で開催中の荒木経惟「広島ノ顔」展の関連企画である。2002年に大阪からスタートをした「日本人ノ顔」プロジェクトも、福岡、鹿児島、石川、青森、佐賀と続いて今回で7県目。既に6,000人以上の公募モデルのポートレートが撮影済みという。とはいえ全国47都道府県を全部網羅するのが目標という壮大な企画だから、まだまだ先は長い。あとは荒木の体力と気力がどこまで続くかということだが、今の勢いを考えると何だかやってのけそうな気もする。もし完成すれば、個人の写真プロジェクトとしては史上最大級のものになるのは間違いないだろう。
レクチャーのために、以前の写真集と「広島ノ顔」を比較してみると、撮影のやり方や様式が少しずつ変化しているのがわかる。以前は単独のモデルの顔写真が多かったのだが、「石川ノ顔」のあたりから家族やグループの、全身像に近い写真が増えてきた。一人の“顔”に視線を集約していくだけでなく、集団の横の繋がりを意識させるようになってきているのだ。撮り方も、ブレや揺らぎ、画面の傾きが目立つようになってきている。フレーミングを保ち続ける集中力が落ちてきているということだろう。だが、それをマイナスととらえるのではなく、むしろ荒木自身の変化とプロジェクトそのものが一体化することをめざすべきではないかと思う。倒れるまで、いや倒れても撮り続けて、文字通りの「ライフワーク」にしてしまえば、これまでにない写真による日本人論の形が見えてくるはずだ。
2009/10/24(土)(飯沢耕太郎)
高橋堅《Brass Clinic Private Viewing》
[千葉県]
竣工:2009年
クリニックの内装。入ってみておそらく誰もが驚くだろう。多くの面が、サンダー処理された真鍮板で覆われており、クリニック全体が、白と黄金を基調として構成されている。真鍮には各種病原体の殺菌力があり、あらゆる環境表面に真鍮板を用いた世界で初めての抗菌クリニックだという。真鍮へのこだわりは徹底しており、ドアノブから幅木まで、あらゆる部分に真鍮が用いられ、金物等で現われそうな銀色は一切見えない。建築において金色は、金閣寺や中尊寺金色堂の例はあるが、特に現代建築ではほとんど御法度というくらい用いられない。しかしそれを高橋堅氏はあえて空間の中核に据える。エントランスの受付カウンターの荷物置きの窪み、空調の吹き出し口には角度が付けられており、これらいくつかの斜めの面の存在によって、白と黄金でできた空間の単調さは回避され、リズムが付けられる。不思議なことに、空間からはどことなく「抽象的な和風」も感じられた。これは通路がやや広めであったりと、ゆったりとした雰囲気があったことも影響しているのではないだろうか。もしかしたらこの空間は、建築を知っている人ほど戸惑いを感じるかもしれない。というのもここでの空間体験は、これまで自分が知っている既存の空間のカテゴリーに入らない新しいカテゴリーの体験であると感じたからである。咀嚼に時間がかかる。しかしそれこそが、新しい空間の誕生を意味するものである。
2009/10/24(土)(松田達)
ウェイ・ジャ展
会期:2009/10/10~2009/10/31
小山登美夫ギャラリー[東京都]
中国のアートは一時的に落ち込んだものの、すぐ復活したらしい。その中国で金融危機前の2007年に「もっとも影響力のある若手アーティスト賞」を受けたのがウェイ・ジャだ。一見、描写は稚拙に見えるけど、天使や少年のモチーフといい、絶妙な色彩やペインタリーなタッチといい、たしかに魅力的な絵ではある。
2009/10/24(土)(村田真)