artscapeレビュー

2010年10月15日号のレビュー/プレビュー

黄金町バザール2010

会期:2010/09/10~2010/10/11

京急日ノ出町から黄金町間の各所[東京都]

かつての売春宿をアートスペースに変えて行こうという黄金町バザール。売春宿はたいてい2階建ての狭いスペースのため、空間的にもコンセプト的にもそれなりに考えて作品をつくらなければならない。最優秀作品(勝手に決めました)は、コインと石鹸を床に映し出した志村信裕の映像。彼は路上にも赤い靴が踊る映像を見せている。お金、石鹸、赤い靴……どれもこの地と関係のあるものばかりだ。

2010/09/12(日)(村田真)

朝倉摂 展「アバンギャルド少女」

会期:2010/09/10~2010/11/07

BankARTスタジオNYK[東京都]

今年88歳(てことは10年前に死んだオヤジと同い年だ)の、まさに「超少女」。初期の挿絵や絵本の原画もあるが、メイン展示はやはり舞台美術。といっても実際に舞台で使われた大道具は残ってないので、2分の1の縮小モデルや大きく引き延ばした舞台写真、記録映像、それにスケッチの類を公開している。そのスケール感や見せ方は建築展に近い。それにしてもすごい量だ。80年代には年に50本以上の舞台美術をこなしたこともあるというから驚く。毎週1本ずつ新しい舞台美術を考えていたことになる。やっぱり数をこなさなくちゃね。

2010/09/13(月)(村田真)

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大西みつぐ「標準街景」

会期:2010/09/01~2010/09/14

銀座ニコンサロン[東京都]

2000年代以降の写真において大きく変わったのは、いうまでもなくデジタル化の全面的な浸透だが、もうひとつ見逃せないのは、街頭スナップの撮影と発表がとても難しくなってきていることだ。かつて、ニコンサロンのような会場で展示される写真の大部分をスナップショットが占めていた。ところが近年、その比率が極端に下がってきているのだ。むろん、「肖像権」というような言葉が一人歩きすることで、撮る側も撮られる側も過剰反応しているのがその大きな理由だろう。東京の下町の路上の光景にずっとカメラを向け続けてきた大西みつぐのような写真家にとって、このような「気難しい時代」の状況は看過できないものがあるのではないだろうか。
大西が銀座ニコンサロンで開催した「標準街景」展には、そんな彼の危機意識と問題提起の意志が明確にあらわれていた。A3判に引き伸ばされた58点の写真は、まさに彼や他の写真家たちが積み上げてきた、「標準」的な街頭スナップの手法で撮影・プリントされている。偶発性に身をまかせつつ、路上で同時発生的に起こる出来事を、一望するように的確にフレーミングし、見事なバランス感覚で画面におさめていく──その腕の冴えはある意味で職人的な完成度に達しているといえるだろう。大西は写真展に寄せたコメントで「急速に写真家の都市における表現の場としての『路上』が遠ざかりつつある」時代だからこそ、「万難を排して、わたしたちの記憶としてのカメラで記されていかなければならない」と書いている。この「万難を排して」という部分に、彼の写真家としてのぎりぎりの決意表明を見ることができそうだ。目を愉しませつつも、どこかきりりと居住まいを正させてくれるような写真群だった。

2010/09/14(火)(飯沢耕太郎)

照沼ファリーザ「食欲と性欲」

会期:2010/09/06~2010/09/18

ヴァニラ画廊[東京都]

「意外に」というと失礼だが、なかなか面白い展示だった。AV女優・監督やミュージシャンとしても活動しているという照沼ファリーザの写真作品には、まさにタイトルにもなっている「食欲と性欲」というコンセプトが明解に貫かれていて、観客を巻き込んでいくインパクトとパワーがある。会場の壁全体に大小70点あまりの額入りの作品がちりばめられているのだが、その半数以上には彼女自身(ほとんどヌード)が写っている。当然ながらその身体的な表現力が高いので、視覚的なエンターテインメントとして充分に楽しめる。それだけでなく、ポーズのとり方に「自分をこんなふうに見せたい」という意志が明確にあらわれているので、すっきりとした爽快な作品に仕上がっていた。ともすれば、「際物」になりそうなテーマなのだが、エロティシズムの発散の仕方が実に開放的で気持ちがいいのだ。
彼女自身が画面の中にあらわれてこない作品も、それはそれで面白い。可愛らしさとグロテスクとエロティシズムの三位一体。使われている小物やオブジェとその配置の仕方に、うつゆみこの作品と共通するものがあると思っていたら、実際に二人は知り合いで、うつが提供したものもあるのだそうだ。さらに生産力をあげつつ、別なテーマにも積極的にチャレンジしてほしい。技術をさらに磨くとともに、知名度、タレント性を活かしていけば、「写真家」としても独特の世界をつくっていけそうな気がする。

2010/09/14(火)(飯沢耕太郎)

陰翳礼賛 国立美術館コレクションによる

会期:2010/09/08~2010/10/18

国立新美術館 企画展示室2E[東京都]

独立行政法人化した東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館、国立新美術館の5館による共同企画展。普段は各美術館の常設展示の枠でおこなわれているような企画だが、さすがに規模が大きくなり、所蔵作品の多様性もあってかなり見応えがあった。1952年に東京国立近代美術館がオープンしてから半世紀以上が過ぎ、各美術館の所蔵作品が曲がりなりにも充実してきたことが、展示を見ていてもわかる。
「影あるいは陰」をテーマとする4部構成の展示の内容もしっかりと練り上げられている。特に東京国立近代美術館と京都国立近代美術館のコレクションを中心とした第3部「カメラがとらえた影と陰」は、写真作品で構成されており、ウジェーヌ・アジェ、アレクサンドル・ロトチェンコから森山大道、古屋誠一まで、モノクローム・プリントにおける「影の美学」がバランスよく紹介されていた。光によってつくられる影や陰だけでなく、写真の場合は被写体を逆光で撮影することでシルエットとして表現する手法もよく使われる。さらに作品によっては、実体とその影という関係が逆転して、むしろ影の方が中心的な主題として迫り出してきている場合もあるのが興味深い。第4部「影と陰を再考する現代」のパートに含まれる、写真を用いた現代美術作品(榎倉康二、杉本博司、トーマス・デマンドなど)も含めて、このテーマは写真作品のみに絞り込んで、もっと本格的に追求していってもよいのではないかと感じた。

2010/09/15(水)(飯沢耕太郎)

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2010年10月15日号の
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