artscapeレビュー
2010年10月15日号のレビュー/プレビュー
ハーブ&ドロシー
会期:2010/09/09
渋谷ショウゲート試写室[東京都]
60年代からコツコツと買い集めた現代美術作品2,000点以上を、ワシントンのナショナルギャラリーに寄贈して話題になったハーブとドロシーのヴォーゲル夫妻。チャック・クロース、クリスト&ジャンヌ=クロード、リチャード・タトルらアーティストの証言を交えて、ニューヨークの古アパートに慎ましく暮らすこの老夫婦を追ったドキュメンタリー映画。これはおもしろい。なにがおもしろいかって、まず、ふたりとも(とくに夫のハーブの)背が小さいこと。小さな夫婦が小さなアパート(1LDK)に住み、小さな(つまり安い)作品ばかりを買ってるうちに、アパート中が作品に占拠されてしまうというドタバタ劇。ハーブが郵便局に勤め、独学でアートの知識を身につけたというのも示唆的だ。彼らの情報収集は徹底し、おそらく収入(だけでなく全生活)の大半をコレクションに注入しているようだが、作品購入は必ずしも計画的とはいえない。むしろ無計画といったほうがいい。ひとことでいえば、アウトサイダー・コレクター。
2010/09/09(木)(村田真)
足立喜一朗 SOAP/SOAP
会期:2010/08/28~2010/09/26
ナディッフギャラリー[東京都]
犬島アートプロジェクトをまとめた『INUJIMA NOTE』(ミヤケファインアート発行)の出版記念会で、柳幸典と対談するためナディッフへ。ギャラリーで足立くんが展示していたのでのぞいてみる。表面に小さな鏡をびっしり貼りつけた紡錘形の立体がいくつか組合わさって、照明を浴びながら回転しているので、ミラーボールのように光が乱反射する。なんだこれはと思っていたら止まってしまった。なんなんだこれは。
2010/09/10(金)(村田真)
25人のアウトサイダーアート展
会期:2010/09/10~2010/09/19
ギャラリーTEN[東京都]
サブタイトルに「獄中画の世界」とあるように、死刑囚をはじめとする塀のなかの人たちが描いた絵の展示。絵だけ見せられてもなんの感銘も受けないが、その人の境遇を知ると俄然興味がわく。たとえば永田洋子死刑囚は、金網の向こうでひとり寂しく縄跳びをする後ろ姿の女性を描いていて、あまりにストレートだ。反対に、ある有期懲役受刑者は、十字架にかけられたキリストを映画ポスターのようにリアルかつキッチュに表わしていて、いったいなにを考えているのやら。彫刻でも版画でも写真でもインスタレーションでもなく、最後に許された(選んだ)表現が絵画であるとしたら、絵画もまだまだ捨てたものではない。
2010/09/11(土)(村田真)
アクティヴィズムの詩学Vol.3 丹羽良徳
会期:2010/07/24~2010/09/11
ギャラリーαM[東京都]
ギャラリーに大きな鉢植えの植物がふたつ置かれ、そのあいだを無数の針金のハンガーが結んでいる。なんだろうとよく見ると、ところどころ枯れ葉や枝が引っかかっていて、どうやら鳥の巣のようだ。つまり、鳥の巣を屋外からギャラリー内へと引っ越しさせたのだ。そのほか、路上の水たまりの水を口で吸い取って別の水たまりに移し替えたり、自宅のゴミをもって飛行機に乗り、サンフランシスコのゴミ捨て場に捨てに行くといったパフォーマンスのビデオを上映。みんな移動とか移植がコンセプトになってるみたいな。
2010/09/11(土)(村田真)
宮本隆司 1975-2010 フィルム&デジタル
会期:2010/09/10~2010/10/09
タロウナス[東京都]
階段を下りた正面に森を映し出すモニターが縦に置かれている。ほとんど静止画のように動かない。横の壁には同様のモニターが5点並び、こちらはそれぞれ木がざわざわ揺れている。ただそれだけで、それ以上なにも起こらない。が、見ているうちに森のざわめきが妙な動きに見え始め、コンピュータで処理したんじゃないかと思えてくるほど。裏返せば、ふだんわれわれがいかに森を見てないかということだ。その奥にはニューヨークで撮ったとおぼしき古い写真が。
2010/09/11(土)(村田真)