artscapeレビュー

2010年10月15日号のレビュー/プレビュー

ハツネ☆フェス2010

会期:2010/09/10~2010/10/11

横浜市中区初音町上通り[東京都]

黄金町バザールの一環で、この界隈ではもっとも山の手(?)に近い初音町上通りにある数件の商店や民家に作品を設置する試み。長者町でも展示していた清水寛子は、呉服屋のショーウィンドーに障子紙を貼った屏風を置いて影絵を投影し、吉井千裕は、元呉服屋を改装したアートショップ「ちりめんや」にペンで描いた夢の絵を飾り、志村信裕はそのちりめんやの横の路地に反物の映像を夜だけ流し、さらにちりめんやの店主、竹本真紀は黄金町一帯にモノ思う少年「トビヲちゃん」を潜ませていた。そんななかで最優秀作品賞に輝いたのは、ジャーン! 北川純でーす。昭和の面影が残る商店のガラス戸を開けると、正面にピンク色のほっこりとした壁。その中央に傷口のような黒い縦長の穴が開き、ジッパーがついている。エロチックな作品が得意な北川だけについ女陰を連想させるが、それだけでなく、フォンタナの切り裂かれたキャンバスや、アニッシュ・カプーアの底の見えない穴も想起させる、深い作品なのだ。

2010/09/17(金)(村田真)

「Japanese Junction 2010」展

会期:2010/09/13~2010/09/18

nanyodo N+(南洋堂書店 4F Gallery)[東京都]

海外の大学に留学している日本人建築学生による合同制作展。イギリス、スイス、フィンランド、オランダ、アメリカという5カ国、10大学の学生24人による作品展示。企画がまず面白い。留学に興味がある学生にとっては、それぞれの国や大学の特徴を見て取れるため有用だろう。過去に同じような展覧会はなかったように思う。キュレーションはイースト・ロンドン大学の学生、留目知明氏。さて、最終日のレビューの際に訪れて、作品のクオリティの高さにも驚かされたが、大学での教育環境が強く作品に現われていることにも驚かされた。むしろ、作品を見ればどこの国のどの大学の学生がつくったものかが見えてくるくらいである。いくつかの興味深い対立軸を見ることができた。プレゼンテーションが方法論化されているアメリカと、プレゼンテーションの分かりやすさよりも建築としての精度を追求するスイス、ダイアグラム化をさけるイースト・ロンドン大学と、ダイアグラム的抽象化のうまいオランダ、といったような。ほかにも多く見つけることができるだろう。つまり、ここでは海外の多様な建築の状況が、縮図として投影されているとも言える。海外における建築教育の一端を垣間見るためにも、ぜひ継続してほしい展覧会である。

2010/09/18(土)(松田達)

藤本壮介『建築が生まれるとき』

発行所:王国社

発行日:2010年8月25日

藤本壮介の、ここ10数年の文章からまとめられた著作集である。第一部は、基本的にそれぞれ作品について書かれた文章であり、第二部は、主に藤本が感動した建築や出来事について書かれている。半分作品集的であり、半分論考集的でもある本である。ところで、藤本にとって「言葉」とは何なのだろうか?本書の最後にそのことが触れられている。それは設計を行なう際の「他者」であり「対話の相手」であるという(「言葉と建築のあいだ」)。これは考えてみると意外な言葉である。なぜなら、言葉を発するのは自分であり、つまりは自分が他者だと言っているからである。ただ、ここに藤本の創作に対する姿勢が現われているように思う。藤本の建築は迷いが少ない、つまり、とてもストレートに伝えたいことが表現されているように見える。ただ、それだけでは藤本の建築が持つ微細な複雑性とでもいうべきものが、どうやって現われてきているのか説明し切れない。おそらく、それが「言葉」との対話から生み出されていると言えるのではないか。藤本は「言葉」も「建築」も分かりやすく、的確で、力強い。しかし、両者のあいだには、やはり微妙なずれがあり、そのずれをめぐって、藤本は絶えず問いを繰り返し、その整合性や関係性を問い続けている。それが、真に藤本の建築の強さになっているのではないだろうか。だから本書は、藤本の建築作品と双対をなしていると言ってよいだろう。

2010/09/20(月)(松田達)

アサクラBankARTシアター 文殊の知恵熱+村田峰紀

会期:2010/09/20

BankARTスタジオNYK[東京都]

朝倉摂展会場に摂さん考案の舞台にも客席にもなる廊下状の構築物がしつらえられ、会期中ここでパフォーマンスが繰り広げられる。トップバッターの文殊の知恵熱は、これまで蓄積してきたネタを継ぎはぎして使いまわし。なにしろ美術、音楽、演芸にまたがるネタなので何度見ても飽きない。村田峰紀はシャツの背中にマジックインキで掻きむしるようにドローイングするという、これまた何度か見たことのあるパフォーマンス。しかしこの場合「ネタの使いまわし」とはいいませんね(マジックインキは使いまわしてるかもしれないが)。この違いはなんだろう。どうでもいいけど。

2010/09/20(月)(村田真)

隅田川──江戸が愛した風景

会期:2010/09/22~2010/11/14

江戸東京博物館[東京都]

パリのセーヌ川にロンドンのテムズ川……に比べると、江戸・東京の隅田川は激しく見劣りがする。とくにぼくらの世代(50代)にとっては、隅田川=臭くて汚い川、という子どものころに染みついたイメージが記憶にこびりついて離れないからなあ。この展覧会は江戸時代の屏風絵から昭和初期の版画まで、隅田川を描いた絵を160点ほど集めたもの。北斎の《冨嶽三十六景》にも広重の《名所江戸百景》にも描かれているが、圧巻はチラシにも使われている橋本貞秀の《東都両国ばし夏景色》。花火見物のために両国橋に押し寄せた何万という群衆を米粒みたいに描いているのだ。ほかにも満員電車のようにたくさんの人々を乗せた橋の絵が何点かあるが、筆者不詳《文化四年八月富岡八幡宮祭礼永代橋崩壊の図》は、人の重みで橋が崩れ落ち、何百という人々が隅田川に飲み込まれていく大惨事を描いたもの。悲惨な絵なのにどこかユーモアすら感じさせるのは、お調子者の江戸ッ子をサラリと描いたひょうきんな絵柄ゆえだろう。

2010/09/21(火)(村田真)

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