artscapeレビュー
2011年02月15日号のレビュー/プレビュー
藝大先端2011
会期:2011/01/15~2011/01/23
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
絵画、映像、インスタレーション、文章、パフォーマンスと、よくも悪くもなんでもありの先端芸術表現科の卒展と院の修了展。初期のころ散見されたハンパな愚作は影をひそめ、みんな驚くほどレベルが高い。先生も熱心だ。しかし教官の指導よろしく軒並み平均点以上の作品を生み出す教育って、先端らしくないんじゃね? まあ時代は変わったのかもしれないが。そんな時代の流れにムダな抵抗を試みるオヤジにウケたのが、焼け崩れたような巨大ロボットの残骸をつくった笹川治子のインスタレーションだ。僕はてっきり焼け落ちた戦艦かと思ったが、どっちにしろそんなもん修士制作でつくるか。世に顧みられない、どうでもいいようなものに対する彼女のシニカルかつ愛情あふれる視線に共感して、新たにM.M賞だ。
2011/01/20(木)(村田真)
朝海陽子「sight」/「Conversations」
「sight」AKAAKA[東京都]2011年1月15日~2月19日
「Conversations」無人島プロダクション[東京都]2011年1月15日~2月26日
赤々舎から写真集としても刊行された朝海陽子の「sight」は、見ていてさまざまな楽しみを味わわせてくれるシリーズだ。写真に写っているのは、部屋の中で何かを熱心に見つめている人たち。年齢も人種もさまざまで、ひとりの場合もグループになっていることもある。いったい彼らは何を見ているのかという謎解きは、タイトル(キャプション)によって明らかにされる。『バンビ』『エデンの東』『勝手にしやがれ』『三丁目の夕日』……。要するに彼らはホームビデオでお気に入りの映画を鑑賞中なのだ。何ごとかに没入している人(なかにはそうでもない人もいるが)の姿をそっと覗き見るのは、なかなかスリリングな行為だ。それとともに,そこに写っている人たちの出自やライフスタイルを、インテリアや服装から想像していく楽しみもある。東京や横浜だけでなく、ベルリン、ウィーン、ロンドン、ソウル、ニューヨーク、ロサンゼルスなど6カ国9都市で撮影されているので、比較文化論的な分析の対象にもなりうるだろう。
この完成度の高いシリーズと比較すると、無人島プロダクションで展示されている新作「Conversations」は、まだ発展途上という印象を受けた。こちらはいろいろな研究にたずさわる若い科学者たちを、彼らのラボラトリーで撮影しているのだが、写真から見えてくる情報が均質なのでどうしても似通って見えてしまうのだ。そのことを踏まえて、朝海は自分自身の旅の経験と彼らとの会話から展開するイメージをつなげていく組写真も試みている。こちらはかなり面白くなりそうだが、まだ数が少なく試行錯誤中のようだ。「sight」のようにコンセプトと内容がしっかりと固まってくるまでには、もう少し時間がかかるのではないだろうか。
2011/01/21(金)(飯沢耕太郎)
建築家フォーラム第98回「建築道」(前田紀貞アトリエ展)
会期:2011/01/17~2011/01/25
INAX:GINZA 7F[東京都]
予算の関係もあってか、通常、ここの展示はスカスカになりがちだが、今回はモノがぎっしりと詰まった濃密な展覧会だった。前田紀貞の建築作品、そしてスタディの様子など、前田塾における活動を紹介し、さらにはBAR典座や事務所の家具を会場に持ち込む。単なる作品の展示ではない。まさに人生そのものが建築であるという前田の建築道のメッセージが表現されている。塾生らが総出で運び、会場と事務所を数回往復したという。その心意気に敬意を表し、出張BAR典座にて、一杯飲んで、熱い建築道を味わう。また筆者が感銘を受けたのは、3コードのもっともシンプルなロックンロールが会場に流れていることだった。これまでに、さまざまな建築展を訪れたが、初めての経験である。
2011/01/21(金)(五十嵐太郎)
はろー、言ってみる/ミシシッピ展 hello it's me.
会期:2011/01/18~2011/01/28
ギャラリーH2O[京都府]
2009年から複数のアーティストとともにコミック誌『KYOCO(キョーコ)』を発行するなど、コミック作家としても活動しているmississippiの個展。印刷された小さな誌面やグループ展でその作品を見ることはあったが、これまで彼の大きなペインティングを目にする機会はほとんどなかった。2010年の12月に東京で開催された個展で出品されたドローイングに加え、新作のペインティングが発表された今展、展示数は少なかったが、それまでとは異なる面で、その作品世界の魅力がうかがえるものだった。やや暗いグレーのトーンで描かれた情景の夢のような浮遊感が物語を誘発し、場面への想像をかき立てる。カラスや人物など、かわいいのかそうでないのか微妙なモチーフやそれらの表情も、つかみどころのないイメージでかえって記憶に残る。《1月16日》という 小さな作品が壁面の隅の低い位置にぽつんと展示されていた。聞くとこれは会期が始まってから展示されたもので、搬入日、降り止まない雪のなかを歩く自らの足下を描いたものだという。 さらっと描いたように見えるし、これだけが他とは雰囲気も異なる。しかし、いずれ融ける地面の雪を見つめながら、作品をしっかりと抱き指先に力を入れて会場へ向かう作家の姿や、冷たい空気に触れるリアルな感覚が想像できて、もっともこの作家の情緒を見ることができる一点に感じた。今後の活動展開も楽しみだ。
2011/01/21(金)(酒井千穂)
建築家 白井晟一 精神と空間
会期:2011/01/08~2011/03/27
パナソニック電工 汐留ミュージアム[東京都]
初期の住宅から、銀行、公共施設、美術館まで、彼の軌跡をたどる回顧展である。とりわけ原爆堂計画の驚愕すべき手描きの表現に驚きつつ、ドローイングに萌えることができた時代の美しい図面に感心させられた。その一方で、やはり通常の建築模型では、ほとんど白井の魅力が表現されないことがよくわかる。なるほど、模型が重要になり、CGによって図面が均質化された、現在の建築の流行とは確かに真逆といえるだろう。いわゆる構成ではなく、表面の素材や装飾など、空間のひだが重要なのだろう。冒頭に編集者だった川添登が白井から受けとった50年前の生原稿が展示されたり、展示の区切りごとに、白井のテキストが抜粋されるなど、改めて白井の神話作用についても考えさせられた。
2011/01/22(土)(五十嵐太郎)