artscapeレビュー

2011年02月15日号のレビュー/プレビュー

荒川智則 個展

会期:2011/01/13~2011/02/13

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

渋谷のTWSにて、カオス*ラウンジによる荒川智則展を見る。なんでロゴがメタリカ風なのだろうと思いつつ、会場のオタク的な空間とゆるい雰囲気に現代らしさを痛烈に感じた。即座に秋葉原的なオタクショップ、あるいはメイドカフェや猫カフェなどのラウンジなどを連想させる空間だろう。「?」をつきつける意味では「アート」なのだが、筆者は技術や審美にもとづく作品の方が好みだと痛感した。一見、ゆるくて汚い感じは、泉太郎の展覧会とも似ているのだが、彼は空間の使い方が巧く(神奈川県民ホールギャラリーの「こねる」展)、古典的な意味でもアートになりえている。ダメならもっと徹底する道もあると思うが、それも狙いではないのだろう。また本展は、集合知の別名である荒川智則とは誰かをめぐって、ネット時代の言説と批評を喚起する。確かに、語りたくなる展覧会ではある。

2011/01/22(土)(五十嵐太郎)

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グザヴィエ・ヴェイヤン展「FREE FALL」

会期:2011/01/15~2011/05/08

エスパス ルイ・ヴィトン東京[東京都]

以前は、一般に非公開だったルイヴィトン表参道の7階スペースが、アートの空間として開放された。その下の外壁とは違い、ガラスに囲まれた空間は、まわりの都市を眺めるのに絶好の場所だ。ヴェイヤンは、コンストラクティヴィズム、モビールなどを踏まえ、青木淳が設計した白く塗られた鉄骨の部屋とばっちり似合うインスタレーションを展開している。つまり、建築的な作品であると同時に、建築とも調和するのだ。もっとも、床にベニヤ板を敷き詰め、工事現場のような雰囲気に変えるなど、ラグジュアリーな建築にも介入している。彼はヴェルサイユ宮殿で「建築家」展(2009)を開催しているが、村上隆のヴェルサイユ展も空間と作品の相性が抜群だった。ヴェイヤンの自由落下をテーマにした作品群でも、自らの落下のイメージを表現した「FREE FALL」(2011)はとくに興味深い。ただの画像に見えて、実はピンによって多数の紙片をとめており、個別のサイズよりも重さのバランスによって、必要なピンの数が決まっている。

2011/01/22(土)(五十嵐太郎)

森村泰昌 展:なにものかへのレクイエム──戦場の頂上の芸術

会期:2011/01/18~2011/04/10

兵庫県立美術館[兵庫県]

昨年12月にも訪れたのだが、小企画の「『その他』のチカラ。森村泰昌の小宇宙」をゆっくり見れなかったため再び訪問。戦争を挟んだ動乱の時代を生きた20世紀の男たちをテーマにした本展は広島市現代美術館の開催時にも足を運んだのだが、一度目は見落としていた作品の細部にも注意を払いながら鑑賞し咀嚼できる機会となったのがありがたい。また、会場自体が異なるので当然かもしれないが、1度目と2度目では印象や感想がやや違う作品があった。映画『独裁者』にもとづき、ヒトラー=ヒンケル(チャップリン)に扮した森村が21世紀の独裁者について語る作品や、日雇い労働者の集まる大阪の釜ヶ崎の壇上で演説するレーニンの映像など、そこに登場するシンボリックなアイテムやさまざまなイメージのアレゴリーについてもひとつずつ考える余裕があり、作品細部へのこだわりも見えてくる。 会場は、三島に扮し現代の芸術を憂い決起する映像作品など、60~70年代の報道写真をもとに思想がぶつかりあった時代を作品化した第一章から、戦争終結の1945年に焦点を当てた第四章までの構成で、最後の映像作品では20世紀はどのような時代であったのかを鑑賞者それぞれに問いかける映像作品で締めくくられる。本展はこれまで各地の美術館で開催されているが地元関西では12年ぶりの森村の個展。貴重な機会である。

2011/01/22(土)(酒井千穂)

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「その他」のチカラ。森村泰昌の小宇宙

会期:2010/11/20~2011/03/13

兵庫県立美術館[兵庫県]

所蔵品を中心に、コレクターO氏が蒐集した作品を含む83点で構成された展示には、活動初期の頃の写真作品や立体作品から、陶器、書などもあるのだが、なかにはアーティスト紹介などの記事ではなく背景として作品が掲載された雑誌までありじつに多彩。 特に面白かったのは、「ポートフォリオ」によって、身体の部位をセルフポートレイトにするシリーズのひとつであり、「手」をテーマにした 1996年の《ポートフォリオ「手」TE》のビデオ作品。 森村氏本人が手がけた小説のストーリーが音楽とともに字幕で綴られるシンプルな映像作品なのだが、記憶をめぐるその物語の場面や情景が実にリアルで、かつ次の場面の展開への期待を誘う。目も足もまさに釘付けになってしまった。 小企画とされているが、 同時開催の企画展とは別のアーティストの一面がうかがえる同館ならではの見応えある内容で見逃してはもったいない。

2011/01/22(土)(酒井千穂)

フジイフランソワ展

会期:2011/01/10~2011/01/22

Oギャラリーeyes[大阪府]

フジイフランソワの作品を見るのは2008年春に豊田市美術館で開催された個展「綯交(ナイマゼ):remix──フジイフランソワ、一体こやつのアートはいかに」以来。大阪での個展も久々の開催だった。以前よりも作品に使われる色の数が増えているようで全体的に鮮やかな印象をうけた。会場には、どら焼きに見立てた虎の毛皮の《とらやき》をはじめ、鈴付きの首輪をつけた《愛玩なまこ》や雀、滝を登る鯉の《瀑中愛玩図》などの「愛玩」シリーズ、柳の葉がカエルの屏風絵《やなぎにかえる》といった作品が並んでいた。和紙にアクリル絵の具や胡粉、ルイボスティーなどで着彩される作品の、ユーモラスなモチーフとかわいらしさ、毒っ気の絶妙なバランスもさることながら、生き物や植物に向けられた視線、その観察眼と慈しみが明白に表われた個展。独自の作品世界に今回も魅了された。

2011/01/22(土)(酒井千穂)

2011年02月15日号の
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