artscapeレビュー
2011年02月15日号のレビュー/プレビュー
ホキ美術館開館記念特別展
会期:2010/11/03~2011/05/22
ホキ美術館(設計:日建設計)[千葉県]
ユニークな絵画コレクションをもつホキ美術館は、東京から決して近い距離ではないが、多くの来場者を集めていた。小さなビルバオ・グッゲンハイム美術館というべき、インパクトのある張り出した展示室と彫刻的な造形は、住宅街の横にあって目立っていた。このかたちは、まわりのカーブする道路も抱え込むように、くねるチューブの集合体としてヴォリュームを構成しており、コンテクスチュアリズム的な操作から導かれたものだ。外観だけではない。室内では、天井の銀河のように見えるLEDの小さな照明群、マグネットによる絵画の設置、音声ガイドのシステム、ガラスの袖壁で仕切られた真黒のコンペ・ルームなど、展示デザインにも新しい工夫が散見される。
ところで、ホキは、日本初の写実専門絵画の美術館というだけあって、いかにこうした作品が、いわゆる「現代アート」から疎外されているかが、改めてよくわかる内容だった。やはり、現代アートとの客層も違う。作品の抽象的なコンセプトではなく、誰にでも驚くことができる写実の技巧と、共感しやすい描かれたモチーフへの物語的な想像可能性によって、一般の観客を魅了している。また個別に見ていくと、森本草介や中山忠彦など、それぞれに異なる画風や世代の違いなども楽しむことができた。
2011/01/14(金)(五十嵐太郎)
池田学 展「焦点」
会期:2010/12/08~2011/01/15
ミヅマアートギャラリー[東京都]
今回は大作の1点勝負ではなく、22×27センチという同サイズの小品20点を出している。しんしんと降り積もる雪の一粒一粒がドクロになっていたり、うねる高波の波頭が険しい山脈に変わっていたり、巨大なヘビが電車を飲み込んでいたり、どれもミクロとマクロ、自然と人工、生と死といった対立するイメージが複合された見事な細密画。大作の場合どの部分を拡大してもピントが合ってるという驚きがあったが、これはその驚きと楽しみを20に分割した感じだろうか。タイトルの「焦点」にはそんな意味もこめられているのだろう。しかしコストパフォーマンスを考えれば、大作1点つくって売れ残るより、小品をたくさんつくって少しでも売ったほうが安全という計算も働いているのではないか、とも思ったが、いや失礼、人気作家の池田学にはそんな心配は無用だった。今回は1点50万円(+税)で、すでに完売しているのだ。ワオ!
2011/01/14(金)(村田真)
OOOO! OH,HOT!?OOOO BL Anthology
会期:2011/01/13~2011/01/18
Hidari Zingaro[東京都]
京都を拠点とする4人のイケメン・アートオーガナイザーOOOO(オーフォー)が企画した「OOOOフェスト」、その第4弾は、美術系腐女子の幕野まえりがOOOOたちのプライベートな共同生活を描いた同人誌マンガを展示。いわゆる「やおい」ってやつでしょうか、メンバーの「恋模様」を赤裸々に暴いた「妄想マンガ」で笑えるのだが、原画とともに展示されているキャンバス画はもっと笑える。肉づけとか陰影といった絵画の基本以前の少女イラストだが、年末に見た「オイルショック!」同様、新鮮といえば新鮮といえないこともない。100号ほどありそうな大作が12万8000円と破格のお値段。しかしこんなのが売れたらどうしよう。
2011/01/14(金)(村田真)
植田正治「写真とボク」
会期:2010/12/18~2011/01/23
埼玉県立近代美術館[埼玉県]
没後十年ということで、美術館「えき」KYOTOを皮切りに5カ所を巡回中の植田正治展が、ようやく首都圏に回ってきた。いうまでもなく、幅広い人気を持つ写真家であり、回顧展も何度も開催されている。いかに新味を出すのかが課題だと思っていたのだが、むしろオーソドックスな構成に徹することでしっかりとその作品の魅力を伝えることができたのではないかと思う。
代表作約200点は「初期作品 1930─40年」「砂丘劇場」「風景、『かたち』・・・1950年代の作品より」「童暦」「風景の光景」「小さい伝記」「音のない記憶」「オブジェなど」「砂丘モード」の10パートに分けて展示され、途中に未発表ネガからプリントされた家族写真「僕のアルバム 1935年代─50年代未発表写真より」が挟み込まれている。この流れは自然で澱みがなく、観客もすんなりと植田の構成感覚と叙情性とが溶け合った作品世界に入り込むことができるように工夫されていた。今回あらためて注目したのは、1970~80年代の「風景の光景」のシリーズ。35ミリフィルムカメラで、日常の「風景」のなかの非日常的な「光景」を切り取った、どちらかといえば地味な作品だが、じっと見つめていると「モノがそこにそのようにあること」の不思議さと不気味さがじわじわと伝わってくるように感じる。海に波がまさに立ち上がろうとする瞬間を捉えた一枚など、哲学的といいたくなるような深みがある。ともすれば感覚的、遊戯的に見られがちな植田正治の写真だが、彼のなかには写真を通じて物事を認識していこうとする意志が貫かれていたのではないだろうか。
2011/01/16(日)(飯沢耕太郎)
ダンボールで再現した国宝茶室、如庵に入ってみよう
会期:2011/01/02~2011/01/16
ハウスクエア横浜 住まいの情報館 3Fライブラリー[神奈川県]
不慮の事故で亡くなった山田幸司の遺作というべきダンボール茶室が名古屋から移築されて、横浜で展示された。Yahoo!や各種の新聞、メディアなど、多くのマスメディアがとりあげたのは、「ダンボール」「国宝」「茶室」という3つのキーワードがキャッチーだったからだろう。ひたすらダンボールを積層させて空間をつくる手法は、3Dの立体スキャンのようなデジタル感覚だが、実際に解体の作業に立ち会い、モノに対するディテールのデザインもきわめてよく考えられていることを確認した。実はハウスクエア横浜の展示が終了後、廃棄される予定だったが、最終日に訪れたお茶関係のグループが引きとりたいと申し出て、厳しいスケジュールにもかかわらず、無事、部材は次の場所に搬出された。ポータブルな茶室ならではの生き残りだろう。次は、2月19日、20日の大場みすずが丘地区センター祭りで再び組み立てられる予定だ。
2011/01/16(日)(五十嵐太郎)