artscapeレビュー

2011年04月15日号のレビュー/プレビュー

「著者が語る、建築本の楽しみ方─お部屋編─」(第4回)家具から見える日本の住文化

会期:2011/03/11

ハウスクエア横浜[神奈川県]

子ども部屋、トイレ、浴室など、部屋ごとに講師を招いたシリーズの第四回は、「家具から見える日本の住文化」と題して、小泉和子さんをお招きした。いかにインテリアや家具の視点から歴史研究を行なう人材がいないか、またその後継者を育てるのが大変なのかを最初に指摘していたが、なるほど、建築の隣接分野でありながら、現代においてもインテリアデザインの研究者やその歴史分析がほとんどない。その後、日本の住文化において、家具が建築化し、家具がないことを語っていたところで、大地震が発生し、レクチャーは即座に中断となった。地震の後、ハウスクエア横浜の建物の前でしばらく避難していたが、通常は見知らぬ他人として帰宅したはずの受講生同士、あるいは講師とのあいだで、不思議な一体感が生まれる。受講者は高齢の方が多く、関東大震災後の生まれなので、東京に住んで、生まれて初めてこの規模の地震を経験したと語っていた。

2011/03/11(金)(五十嵐太郎)

レンブラント 光の探求/闇の誘惑

会期:2011/03/12~2011/06/12

国立西洋美術館[東京都]

同時代のフェルメールほど人気急上昇というわけにはいかないけれど、レンブラントも一定の支持を得ているわけで、日本でも数年にいちど大きな展覧会が開かれてきた。そのつど「光と影」をテーマにしたり、弟子たちとの関係に焦点を当てたりしてきたが、今回は「版画」。たしかにレンブラントは版画家としても卓越した才能を発揮したし、和紙を使ったことも興味深いけど、油絵に比べれば量産されてるし、それだけ安いし、色もないし、ちょっとお手軽感があるし、なんかサイドビジネスって感じがするんだなあ。同じ版による別刷りを2、3点並べられても、研究者には垂涎ものかもしれないけど素人は楽しめないよ。やっぱりレンブラントといえば重厚な油絵をがっつり見たいと思うのだ。もちろん、若いころの自画像ともいわれる《アトリエの画家》とか、絶頂期のころの《書斎のミネルヴァ》、愛人の肖像《ヘンドリッキェ・ストッフェルス》など胸やけしそうな油絵も、数は多くないけど何点か出ているので不満はないが。それにしても、この直後の原発事故から停電騒ぎを経たいまとなっては、「光の探求/闇の誘惑」というサブタイトルは皮肉としかいいようがない。

2011/03/11(金)(村田真)

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「ヨコハマトリエンナーレ2011」記者会見

会期:2011/03/11

外国特派員協会[東京都]

会見場へ行くため有楽町駅前を歩いていたとき、大地が揺れた。有楽町駅は老朽化した高架のため電車が落ちてきたら困るので、なるべく駅から離れようとするが、反対側の高層ビルからガラスの雨が降ってきても困るので、道の真ん中へんにいることに。久しぶりぶりだなあ身の危険を感じたのは。不謹慎ながら、こういうときってアドレナリンが噴出してパカッと覚醒し、生きてることを実感するんだよね。揺れが収まってビルの20階にある会見場に行こうとするが、エレベータが動かず、関係者とともにしばらく待機。この間に美術評論家の中原佑介死去の報が飛び交う。結局、記者発表は中止となり、資料をもらって六本木まで歩いて帰宅。家のなかは食器棚から皿やグラスが半分くらい飛び出して床に破片が散乱、自室は数千冊の雑誌やカタログ類が膝くらいの深さまで万遍なく床に降り積もってまるで本の海。本が液状化することを初めて知った。しかしこの時点ではまだこれほどの大災害になるとは思いも寄らなかった。ヨコトリのほうはといえば、海外のアーティストが参加を尻込みしているとか、8月開幕なのに冷房が使えそうにないから延期だとかいろいろウワサが飛び交ったが、いちおう予定どおりやるみたい。

2011/03/11(金)(村田真)

長沢芦雪──奇は新なり

会期:2011/03/12~2011/06/05

MIHO MUSEUM[滋賀県]

円山応挙(1733-1795)に学び、江戸時代後期に活躍した長沢芦雪の初期から晩年までの作品約110点を展示した大規模な展覧会。応挙の画風を踏襲したものから、徐々に奇抜で斬新な表現や技法を繰り広げていくそのバラエティ豊かな作品群の見応えもさることながら、なにより芦雪の尽きないチャレンジ精神、ものごとへの好奇心、弛まぬ創作意欲と遊び心が全体を通してあきれるほどに感じられるのが素晴らしい。代表作として知られる《虎図襖》(和歌山・無量寺蔵)、《白象黒牛図屏風》(エツコ&ジョウ・プライスコレクション)などをはじめとする動物のいきいきとした描写、ダイナミックな構図、そのインパクトとは裏腹の手の込んだ細やかさにも目を見張る。あまりにも多様な作風と自由奔放な雰囲気の表現から芦雪自身のパーソナリティにも興味が湧いてくる。会期中にぜひもう一度ゆっくり見たい。

2011/03/11(金)(酒井千穂)

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パウル・クレー展──おわらないアトリエ

会期:2011/03/12~2011/05/15

京都国立近代美術館[京都府]

ベルンのパウル・クレー・センターが所蔵する作品を中心に約170点で構成された本展には日本初公開の作品も数多く含まれている。ただ、今展はこれらの作品展示からクレー芸術の魅力を伝えるというものではなく、クレー自身が重視していた「制作プロセス」に焦点をあて、作品がどのようにしてつくられたのかを検証することをテーマにしている。作品を体験する観点をいかに多様化、多角化するのかを探るというそのコンセプトのもとにピックアップされた作品資料は、クレーのアトリエ写真に記録されているものや、自ら「特別クラス(Sonderklassse)」と名付けて手元に置いていた作品、そして制作上の具体的な技法を示すものなど。画面を切断したり反転したりして再構成された作例、「油彩転写」とその素描、絵画の表と裏の面を同時に見せる展示や小さなアトリエ空間の再現など、工夫された展示からは作家自身の物語も濃厚にうかがえる。クレー作品の色彩やタイトル、形態などについて興味がかき立てられると同時にその創作の源泉をたどるような楽しさもある内容で見応えのある展覧会だ。

2011/03/11(金)(酒井千穂)

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2011年04月15日号の
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