artscapeレビュー
2011年04月15日号のレビュー/プレビュー
山田俊行 展──テンノカサナリ
会期:2011/03/08~2011/03/13
ギャラリーすずき[京都府]
タイトルのとおり無数の点が重なる絵画作品。一見、気分が悪くなりそうなほどの細かい点と色彩の集合は、よく見ているとリズミカルなパターンのように美しくも感じられて表情豊かだ。ただ、そんな視覚的な印象よりも、混沌のなかからいままさに図と地が形となって現われようとしている場のような空間的・時間的な広がりを想像させる画面と、そこに意識が誘い込まれていく感覚の体験が心地よく興味深い。
2011/03/13(日)(酒井千穂)
大畑公成 展
会期:2011/03/08~2011/03/13
ギャラリーモーニング[京都府]
ウィーン応用美術大学に留学していた大畑の帰国後初めての個展。光溢れる自然や動植物、人物などが描かれた絵画の、多様な色彩と透明感、それらの厚みは画面に時間的な奥行きも生み出していて、物語の続きへと想像を誘っていく趣きがある。今展では大小20点ほどの新作が発表されたが、個人的にはのびのびとした印象の軽やかな筆触のなかに遊び心が感じられた小さな作品が好きだった。今後の発表も楽しみにしている。
2011/03/13(日)(酒井千穂)
松井沙都子 展「Phantom hides on the wall」
会期:2011/03/08~2011/03/27
neutron kyoto[京都府]
松井沙都子の新作展。ステートメントには「複数のモチーフを組み合わせて作った絵画」と記されているが、その平面作品は、絵画ともコラージュともつかない微妙な印象。画面の線や色ははっきりしているが、ところどころの輪郭が消えて図と地がつながっていたり、断片的に重なっているため、イメージは曖昧で画面を浮遊しているようにつかみどころがない。この制作工程がまた複雑だ。モチーフとして選ばれる「既視感のある形態」は、まず作家の手でドローイングもしくはトレースされる。その後、スキャンしてPCで編集し、図案化したものをカッティングシートなどに出力し、マスキングシートとして画面に貼付け、絵の具で塗装する。このように手の込んだ作業で画面に表わされるイメージは、板の上で押しつぶしたか押しのばしたかのように平坦な印象で、もともとの物質感も希薄にしているのだが、ただそれらは、すれすれのところで既視感を留め、見る者に違和感を与える。今展で発表された作品では、モチーフは以前よりも具体的なイメージを想像できるものだったのだが、かえってそれが功を奏し、しばらく引き摺られるような微妙な違和感となって作品の魅力の強度を高めていた。
2011/03/13(日)(酒井千穂)
東京綜合写真専門学校卒業制作展2011
会期:2011/03/16~2011/03/21
BankART Studio NYK 2B gallery[神奈川県]
1000年に一度という東日本大震災は、アートの世界にも大きな影響を及ぼしつつある。展覧会やイベント開催の延期、あるいは中止の知らせが各地から相次いで聞こえてくる。そんななかで横浜のBankART Studio NYKは、事情が許す限り平常通りの運営を続けていくことを決めた。津波が対岸の岸壁を洗うまで押し寄せたという状況において、これは英断だと思う。むしろ「こんな時だからこそ」、妙な自粛など考えずに普通に活動を続けていくことが大事なのではないだろうか。
そのBankARTの2Fでは、東京綜合写真専門学校の卒業制作展がスタートした。といっても卒業生全員ではなく、第一学科(昼間部)2名、第二学科(夜間部)6名によるグループ展だ。数は少ないが、それぞれしっかりと自己主張していて面白かった。この学校の特徴は、コンセプトを固めた作品作りをかなり強く打ち出していこうとしていることで、学生たちの展示に対する意識も高い。また会場に置かれているポートフォリオもよくまとまったものが多かった。藤田和美の雨や雷のようなサウンドと写真を組み合わせた「line/blank」、鈴木真理菜の身体と世界の関係を問い直すセルフポートレート「境界」、墨谷風香の批評的な視点を感じさせる「ポートレイト(知っている人と知らない人)」、佐藤佳祐の周囲を黒く落とした自動販売機のシリーズ「machine」など、「見せ方」をきちんと意識しつつ作品が構築されていた。さらなる展開を期待したい。
なおBankARTでは、「ポートフォリオをつくる」をテーマにワークショップを開催している。その「飯沢ゼミ」も平常通り開講され、約半分10名の受講者が集まった。そのうち2名が「3・11」の日記的なドキュメントを課題として出してきた。これもとても大事なことだと思う。写真家はどんな状況においてもまずは撮るしかない。いまこそ「写真の力」が必要になる時ではないだろうか。
2011/03/16(水)(飯沢耕太郎)
プリズム・ラグ──手塚愛子の糸、モネとシニャックの色
会期:2011/03/17~2011/06/12
アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]
目に「見える」色彩を追求した印象派のモネ、シニャックの作品とともに手塚愛子の作品が展示された本展は「虹色」というキーワードのもとに構成されている。織物からその縦糸や横糸を引き出して分解したり、それを再構成するという手法で、表面には見えない時間を示そうとする手塚の作品は、精緻な作業とそこに表出した糸の色数、繊細な様態自体がそもそも説得力のある美しさで、見入ってしまうものも多いのだが、今展では手塚がその制作において重視している「ズレ」という観点もまた印象に残る展示作品で示されていて、じっくりとあじわいたい空間となっていた。手塚は、数々の選択肢のなかからひとつだけが選ばれていくなかで出来上がった歴史としての織物を解くことで、そこには同時に、切り捨てられた選択肢と可能性の数々が潜む歴史があることを提示しようとしている。虹色というテーマとともに、普段われわれが見えていないものを出現させようとするその装置は、希望的な光を感じさせるものでもあった。天気のよい明るい日にもう一度見に行きたい。
2011/03/17(木)(酒井千穂)