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artscapeレビュー

莫毅「80年代 PART1 「風景」、「父親」」

2015年05月15日号

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会期:2015/04/07~2015/04/22

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

1958年チベット生まれの莫毅(モイ)は、他に類を見ない独特の作風を育て上げてきた。まったくの独学で写真を始め、お仕着せの報道写真か、伝統的なテーマを繰り返すだけのサロン写真しかなかった中国の写真界で、文字通り体を張って意欲的な実験作を発表し続けてきたのだ。ZEN FOTO GALLERYでは、2回に分けて彼の作家活動の原点というべき1980年代の作品を取り上げる。今回のPART1では、1982~87年に撮影された「風景」、「父親」の2シリーズから、23点が展示されていた。
この時期、中国の社会は閉塞状況にあり、人々のフラストレーションは爆発寸前にまで高まっていた。チベットから大都市、天津に出てきた莫毅もむろんその一人で、鬱積した怒りの感情を抱いて、望遠レンズで街を舐め尽くすように撮影していったのが「風景」のシリーズである。そのタイトルには当時人気があった「田園風景」の写真に対する皮肉が込められているという。莫毅のような当時の若者たちにとっての父の世代の人物にカメラを向けたのが「父親」のシリーズで、彼らの虚飾や歪みを、冷静に距離をとって暴きだしている。思い出したのは、東松照明が1950~60年代初頭に撮影した「日本人」シリーズで、「地方政治家」(1957年)や「課長さん」(1958年)のアイロニカルな視点は、莫毅と共通しているのではないだろうか。
なお2016年1月開催予定のPART2では、莫毅の1987年以降の代表作が展示される予定である。1989年の天安門事件を挟んで、彼はより実験的でコンセプチュアルな作品を発表していくようになる。以前も本欄で書いたことがあるが、もうそろそろどこかで、このユニークな写真家の全体像を見ることができるような、大規模な展示を実現してほしいものだ。

2015/04/16(木)(飯沢耕太郎)

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