2017年11月15日号
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artscapeレビュー

室伏鴻《Dancing in the Street》(「六本木アートナイト」サイレントダンスプログラム)

2015年05月15日号

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会期:2015/04/25~2015/04/25

三河台公園[東京都]

室伏鴻の日本では久しぶりとなる舞踏上演が、六本木アートナイトの一演目として行なわれた。当夜六本木では、アートというよりもお祭りが好きな人の群れが各所で騒ぎを起こしていたが、室伏が舞台として依頼されたのは三河台公園。夜10時半の野外上演では致し方ない面もあるだろう。とはいえ、係員が「静かにしてください」と書かれたプラカードを観客たちに掲げ、頻繁に注意を促すという状況は、周辺住民を慮ってはいるかもしれないが、さすがに踊り手への配慮を欠いている。なんと終幕の際の拍手もNGという徹底ぶり。そんないわば「アウェイ」な環境のなか、室伏のパフォーマンスは、しっかりとしたテンションを感じさせる、とても充実したものだった。広い円形の砂場。真ん中には、遊具の組み合わされたすべり台。その空間を舞台にして、冒頭、白いレースの布で顔を覆い、黒い衣服から銀色の両手足を露にし、室伏は、ときに力をみなぎらせ、ときにそのこわばる身体を脱力して、観客のまなざしを虜にしていく。野外で踊るときに、室伏はみずからの本領を発揮する。室伏の踊りはただのつくられた踊りではない。それは、その場の環境で起こるすべてを吸っては吐くことで展開する。いくつかの約束事は決められているのかもしれないが、ほとんどは即興的な行為である。不意に、すべり台を上り始めた。どうするのだろう? 上ったからには下りなければならないだろうが……と思っていると、力なく黒い体はゆるゆると坂を下り、地面に不格好に落ちた。思わず笑ってしまうのだが、その笑いは、その場につくられつつあった空気をぶちこわし、代わりに違うテンションを持ち込む、その発端に鳴り響く「サイレン」となった。慣性の法則に抗えず放り出された死体? いや、死に切れずそれはもう一度、すべり台を上る。今度は、直立状態で着地すると、何度かバウンドしたあげく横に倒れた。そうして繰り返す、死体と生体の往還。死体であり生体である室伏の口から黒澤明『生きる』で主人公が唄う「命短し~」のフレーズが漏れる。この映画も公園が重要な舞台となるお話だ。と、思っていると今度は、黒い衣服を脱ぎ、銀色の全身が現われた。肉体は砂に混ざり合い、公園の灯に照らされる。異形の体が、六本木アートナイトの喧噪の端っこで、その喧噪とは別の物語を紡いでいた。最後は、四つん這いになり、人間であることとも別れを告げ、室伏の肉体は六本木の異生物となった。

2015/04/25(土)(木村覚)

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