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富士定景─富士山イメージの型

2015年08月15日号

会期:2015/01/17~2015/07/05

IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]

IZU PHOTO MUSEUMの企画展は、いつも高度に練り上げられており、視覚的なエンターテインメントとしても楽しめるものばかりだ。ただ、今回の「富士定景─富士山イメージの型」展は、同美術館で2011年に開催された「富士幻景──富士にみる日本人の肖像」展とかぶる部分が多く、やや余裕のない印象を受けた。特に前半部の富士山を被写体とした古写真、絵葉書、プロパガンダ雑誌などを中心とする「第1部 富士山イメージの型」のパートは、前回の展覧会のダイジェスト版という趣だった。おそらく、次の企画である「戦争と平和 伝えたかった日本」展に全力投球するためだろう。もっとも、前回の展覧会を見ていない観客にとっては、富士山が日本人の感性の「型」を形成する重要なファクターになっていることがよくわかる、充分に面白い展示になっていたのではないだろうか。
今回の展示の中で、とても興味深く見ることができたのは「第2部 富士山と気象:阿部正直博士の研究」のパートである。阿部正直(1891~1966)は、「雲の博士」として知られる気象学者で、1927年に自費を投じて御殿場に「阿部雲気流研究所」を設立し、富士山にかかる雲の研究を開始した(1945年に閉鎖)。その間に、膨大な量の定点観測写真の他、立体写真、映画、スケッチ、地形図なども作成している。科学写真の領域に入る仕事ではあるが、千変万化する雲の動きを見ていると、想像力がふくらみ、伸び広がっていくように感じる。第1部の写真群から続けて見ると、富士山をテーマにした、ユニークな作品としての価値が、あらためて浮かび上がってくるように感じた。IZU PHOTO MUSEUMは、まさに富士を間近に望む絶好のロケーションにある。「富士山」の展示企画は、さらに回を重ねていってほしいものだ。

2015/07/01(水)(飯沢耕太郎)

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