2019年10月15日号
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artscapeレビュー

没後20年 具体の画家──正延正俊

2015年08月15日号

会期:2015/06/13~2015/08/02

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

正延正俊(1911~95)は、1954年の具体美術協会の結成に参加し、1972年の解散まで全展に出品した数少ないメンバーの一人。1948~49年頃に吉原治良(1905~72)の指導を仰ぐようになり、世代としては、元永定正(1922~2011)や白髪一雄(1924~2008)より一回り年長だった。没後20年を記念して、後年に自宅とアトリエを構えていた西宮で回顧展が開催された。
とりわけ圧巻なのが、大画面の代表作を一堂に集めた第一展示室。茶褐色や白・黒を基調とした色彩を用いて、夥しい線描や斑点、殴り書きの文字のような形象がオールオーヴァーに画面を覆い尽くしていく。色彩はいたって地味だが、近づいて目を凝らすと、濃淡のある茶褐色の下地の上に、白、黒、灰色、深緑、黄土色といった様々な色彩で細い線が何層にも描き重ねられ、多層構造がもたらす密度と多方向へ流れる線の運動性が視覚をスクラッチする。また、油絵具とともにエナメル塗料も用いられ、綿布への滲みやエナメルの光沢感、絵具の厚塗りや削り取りといった操作によって、絵具の物質性が前景化し、筆線の増殖性との相乗効果をもたらす。近づいたり離れたりしながら一枚一枚の絵画と向き合ううちに、その豊穣な奥行きをたたえた画面に惹き込まれ、大気の流れや微細な空気の震え、散らばる星雲、緻密に織られた織物のように見えてくるのだ。
本展では、こうした主に60年代の代表作の他に、「具体」参加以前に描いていた構成的な風景画や静物画、生涯にわたって日常的に制作していた実験的な小作品も展示された。これらの小作品は0号ほどの大きさだが、色彩や画面構成、厚塗りや削り取りなどの技法、エナメル塗料という新素材の探究など、様々な実験を日々繰り返していたことが分かる。
近年、国内外で脚光を浴びる具体美術協会だが、初期のアクションや既存の表現領域の境界を打ち破る「前衛性」に評価の主軸が傾くならば、「アンフォルメル旋風」以降の「具体」の活動は「絵画」への後退と判断されてしまい、正延のように一貫して絵画に取り組んだ作家は評価から取りこぼされてしまうだろう。今回の回顧展が、正延の再評価、ひいては「具体」の評価の再考につながるものになればと思う。

2015/07/19(日)(高嶋慈)

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