artscapeレビュー

堂島リバービエンナーレ2015「Take Me To The River  同時代性の潮流」

2015年08月15日号

会期:2015/07/25~2015/08/30

堂島リバーフォーラム[大阪府]

4回目を迎える国際現代美術展。大阪市街を流れる堂島川に面した会場で開催されるため、「リバー」という単語が冠され、出品作も「川」「水」「流れ」「海」をモチーフにしたものが多く目につく。そうした視覚的な分かりやすさの一方で、展覧会自体は社会政治的なテーマで構成され、作家数15名(組)と規模は大きくないものの、見応えある展示となっていた。
例えば、矢印型の筏で京都~大阪まで川下りを行なった《現代美術の流れ》(1969)で知られるプレイは、当時のドキュメンテーションの展示とともに、小屋型の筏を川に浮かべるパフォーマンスを新たに行なった。また、下道基行は、沖縄の海岸に流れ着いた様々な地域の漂着ビンを用いて、再生ガラスの器をつくるプロジェクトを提示。「移動」による様々な文化圏の混淆を再生ガラスの姿に仮託するとともに、沖縄という土地の複雑な歴史的・地政学的位置に言及する。また、貨物タンカーの事故現場を紙で模型風に再現したメラニー・ジャクソンの《不快な人々》は、国境間の移動、「移民」問題を扱う。さらに、無人のマクドナルドの店内が水浸しになっていく様子を徹底的にリアルにつくり上げたSuperflexの《水没したマクドナルド》や、ロゴ入りの紙袋を切り抜いて樹の形につくり変える照屋勇賢の《告知─森》は、消費社会批判や環境問題に言及する。
とりわけ、「アイデンティティの流動性」という深刻になりがちな問題を、軽快でポップな映像で示して興味深いのが、ヒト・スタヤルの映像インスタレーション《Liquidity Inc.》。「泳げ」と繰り返し呼びかけられる主人公の「ジェイコブ」は、アジア系の顔立ちの青年だが、結局、彼が何者なのか分からないままだ。ベトナム戦争孤児/総合格闘技のファイター/金融ビジネスマンという複数の顔を持つことは分かるが、個々についての深い掘り下げはなく、捉えどころの無さだけが残る。
リズミカルな映像編集とポップな音楽にのせて、繰り返し流れる「水のように流動的になれ」というメッセージ。それは、状況に柔軟に対応すべき格闘家の心得でもあり、市場価値の流動性、グローバル企業の拡大や戦略であるとともに、複数の文化間にまたがる生を生きるアイデンティティの流動性でもある。水や波のイメージの反復と共に流れるメッセージは、巨大な波形の構造物が客席として用意され、柔らかいクッションに寝そべりながら鑑賞するスタイルとも相まって、自己啓発セミナーのマインドコントロールのような刷り込み効果をもたらす。
そうした捉えどころの無さは、この映像自体の性格でもある。様々なスタイルが継ぎはぎされ、アイデンティティが一定しないのだ。例えば、過激派テロ組織の映像を思わせる覆面の人物が唐突に登場するが、TVの天気予報の語り口を真似て、「自意識のコントロールで世界が変わる」とレクチャーを行なったり、偏西風や海流をグローバル社会における労働力や物資の流動性へとトレースさせ、天気予報の「無害さ」を社会的・政治的な力動関係の視覚化へと変質させていく。《Liquidity Inc.》は、「美術作品」としての真面目さを脱力させるユルさを表層的にまといつつ、娯楽としてのミュージッククリップ、自伝的なドキュメンタリー、企業のプロモーション、自己啓発セミナー、テロ組織の犯行声明やPR映像、TVの天気予報といった様々な映像の文法をパロディ的に用いることで、現代社会において映像がどう用いられ、視聴者にどのような心理的効果を及ぼそうとしているかを、ユーモアを交えながらあぶり出していた。

2015/07/24(金)(高嶋慈)

2015年08月15日号の
artscapeレビュー