2019年11月15日号
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artscapeレビュー

瀬戸正人「瀬戸家1941-2015──バンコク ハノイ 福島」

2015年08月15日号

会期:2015/07/14~2015/07/27

新宿ニコンサロン[東京都]

家庭アルバムは写真家の自己表現をめざすものではないゆえに、逆に撮ることの原点を指し示し、写真本来の輝きを刻みつけることがある。ただ、今回瀬戸正人が新宿ニコンサロンで開催した「瀬戸家」展は、その中でもやや特異なありようを呈していると思う。というのは、「瀬戸家」の来歴そのものが、普通の日本人の家庭アルバムにはおさまりきれないものだからだ。
瀬戸正人の父、武治は1941年に会津若松の写真館で撮影した記念写真を残して出征し、上海、ベトナム、ラオス、タイと転戦して終戦を迎える。ところが、引揚げの機会を失って、タイ国ウドンターニ市に留まり、当地でハノイから来たベトナム人の女性、ジンと結婚して写真館を経営するようになる。1953年、トオイ(日本名、正人)が誕生。1962年になって、ようやく故郷の福島県梁川町(現伊達市)に帰郷することができた。
つまり、日本の戦前から戦後にかけての歴史と社会状況を、あまり例のない角度から照らし出しているのが「瀬戸家」に残された写真群であり、それらのスナップ写真、記念写真には、その断面図が重層的に畳み込まれているのだ。今回の展示では、小さい写真をスキャニングして大きく引き伸ばし、実物と一緒に並べていた。写真の表面の傷や染み、印画紙の凹凸までくっきりと浮かび上がることで、実物以上の物質感を体験できるのが興味深い。そのことによって、タイ、ベトナム、日本の時空が入り混じり、行き交うような、カオス的といえる展示空間が成立していた。
会場には、福島やハノイで撮影した瀬戸自身の「作品」も展示されていたのだが、今回はむしろ「瀬戸家」のアルバムだけで構成した方がよかったような気もする。「作品」はまた別の物語を呼び起こしてしまうからだ。

2015/07/20(月)(飯沢耕太郎)

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