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2017年04月15日号のレビュー/プレビュー

藤森照信展 自然を生かした建築と路上観察

会期:2017/03/11~2017/05/14

水戸芸術館現代美術センター[茨城県]

増田彰久の写真を使いながら、藤森の作品を紹介する。また、床置きの木彫り模型、味のある手書きスケッチなどが目を引き、味気ない模型や図面が並ぶ通常の建築展に比べると、藤森は展覧会向けかもしれない。一番興味深いのは、最後のパートにあった壁に立て掛けた素材見本だ。触りたくなるテクスチャー表現の工夫、雨漏りしないためのディテールを実物で紹介している。ちょうど水戸芸術館の高校生ウィーク2017で、ワークショップ室を無料カフェとし、隣ではたねやがお菓子を販売していたが、展示室でも(!)一部飲食可能としたり、苔を持ち込むなど、実はかなり攻めた美術館の使い方に挑戦していた。また、街なか展示では、ワークショップで採集された水戸の路上観察物件を紹介していた。

2017/03/25(土)(五十嵐太郎)

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江戸に長崎がやってきた! 長崎版画と異国の面影

会期:2017/02/25~2017/03/26

板橋区立美術館[東京都]

江戸中期から100年以上もの間に長崎で版行され、主に同地を訪れた人々の土産物として親しまれた版画──長崎版画(長崎絵)を紹介する展覧会。長らく中国やオランダとの貿易の窓口であった長崎の版画には、中国人やオランダ人の風俗、オランダ船をモチーフにしたものが多く見られる一方で、名所風景が描かれることが少なかったのは、これらの版画に求められていたのが江戸時代の人々にとってのエキゾチシズムだったからであろう。オランダ人の食事風景を描いた作品が人気だったというのも、江戸の人々の好奇心を物語っていて面白い。また、本場で学んだことを権威づけるためであろうか、江戸の蘭学者や蘭医がこれらの版画を購入して持ち帰ることもあったという。江戸の浮世絵と比べると比較的素朴で色数が限られているものが多いが、それがまた浮世絵版画にはない魅力だ。日本人は出島には自由に出入りできなかったので、じつは長崎在住の者であってもオランダ人を実見できる機会は限られていた。そのため他の絵師による肉筆画や版画をコピーしたり、想像で描いたりすることも頻繁に行なわれていた。それでも、江戸でペリー来航を描いた版画などに比べれば、オランダ人の姿は写実的に描かれているように思う。今回の展示でとくに興味深かったのは、長崎版画の再発見を取り上げたコーナーだ。開国とともに廃れていった「長崎版画(あるいは長崎絵)」が脚光を浴びたのは明治末期。明治40年代から昭和初期にかけて、南蛮、紅毛趣味が流行し、長崎版画の蒐集や研究が進んだ。長崎絵、長崎版画という名称で呼ばれるようになったのもこの頃だ。長崎版画に傾倒した人物のひとりが版画家の川上澄生で、なるほど本展に出品されている版画には川上澄生の作品を彷彿とさせるものがいくつもある。[新川徳彦]

2017/03/26(日)(SYNK)

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台北 國立故宮博物院──北宋汝窯青磁水仙盆

会期:2016/12/10~2017/03/26

大阪市立東洋陶磁美術館[大阪府]

故宮博物院が所蔵する北宋時代(960-1127)の汝窯(宮廷用の青磁を焼成した窯)による青磁水仙盆を紹介する展覧会。現在、世界中に残る汝窯の青磁は90点ほど、そのうち故宮博物院は21点を所蔵しているという。伝世品中の最高傑作とされてきた、海外初公開の《青磁無紋水仙盆》が展示品の目玉である。全く貫入がなく、「天青」と称されるグレーがかった淡い青系の釉色に、過不足も何の破綻もなく完成された形状。美しい、の一言に尽きる。汝窯青磁をことのほか愛した清朝の乾隆帝は、とくにこの作品を賞玩し、底部には自らの詩を彫らせている。今回の展示の妙は、上記目玉作品と並んで、大阪市立東洋陶磁美術館が所蔵する汝窯《青磁水仙盆》と、《青磁無紋水仙盆》を真似て清朝の景徳鎮窯で作製された水仙盆が併置されていること。これらが一同に集合し公開される機会はなかなかない。清朝宮廷が旧蔵していた青磁は同博物院に多数あり、そのどれもが元に置かれた場所まで辿ることができるほど。しかし北宋時代における「水仙盆」の用途は、いまだによくわかっていない。いったいどのように使われたのだろうかと、想像がふくらむ。[竹内有子]

2017/03/26(日)(SYNK)

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サバイバルファミリー

矢口史靖監督『サバイバルファミリー』。突如、電気が消失し、機械音がない世界に変貌する。そこで日本人共同体の日常が緩やかに綻び、やがて取り返しがつかなくなっていく序盤の、不気味さは絶品だった。ただし、家族のみで九州に向かう中盤からはやや説教くさい。絶体絶命でのカタルシスも、あっと驚くのだけど、序盤からのトーンとは違う。もっとも、電気が消えるというワンシチュエーションの設定は、発明的である。

2017/03/26(日)(五十嵐太郎)

川瀬理央展

会期:2017/03/27~2017/04/01

ギャラリー白3[大阪府]

まるで毛細血管のように細かな枝を張り巡らせた樹木。川瀬理央の作品を簡単に説明すると、こうなる。彼は京都精華大学で陶芸を学び、現在は大阪産業大学デザイン工学部 建築・環境デザイン学科で非常勤助手をしながら制作活動を行なっている。グループ展こそ豊富だが、個展は今回で2度目という新進作家である。作品は磁土による陶オブジェだが、造形の細かさが尋常ではない。手びねりのひも状パーツを型に沿わせながら造形しているというが、ここまで複雑な形態をつくり上げ、キープするには、独特なノウハウが必要だと思われる。作品のテーマは聞いていないが、盆栽にも通じるミクロコスモスを感じた。また、神話に登場する生命樹や、アニメ映画『天空の城ラピュタ』に登場する浮遊都市の巨木も連想した。筆者が自分のSNSに投稿した彼の作品の画像には、多数の「いいね」や「リツイート」が付き、一般の反応も上々のようだ。今後の活躍が期待される若手作家として注視していきたい。

2017/03/27(月)(小吹隆文)

2017年04月15日号の
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