artscapeレビュー

2017年04月15日号のレビュー/プレビュー

いまふくふみよ 回帰する時間/Natural Dyeing

会期:2017/04/04~2017/04/09

アートスペース虹[京都府]

道路に面したガラスドアから3つの壁面が見えるアートスペース虹。そのうち一面はカラフルな水玉模様で埋め尽くされ、残る2面にはマリメッコのテキスタイルにも似た花模様や色面分割の図柄が、絵画の要領で展示されていた。驚いたことに、これらはすべて天然染料(素材は主として植物)による型染め、引き染めで、色は日本の伝統色だという。筆者が見たことのある日本の伝統色は、書籍だともうもう少し原色に近くて強め、布地だと逆に渋めの色合いだった。本展の作品では、色調は淡いパステルトーンで、作品によってはグラデーションも見られる。作者のいまふくによると、布地を渋めの色合いで仕上げるのは、現代人の思い込みによるところが大きいという。かつてクラシック音楽で古楽ブームがあった時(1980~90年代)、作曲家が生きていた当時の音色、テンポ、リズムで演奏された楽曲の斬新さに驚いた記憶があるが、染色でも同じことが言えるのだろうか。いまふくは本展にあたって、日本の伝統色にまつわる調査研究をまとめた冊子も制作している。地道な活動を結実させた彼女に敬意を表わしたい。

2017/04/05(水)(小吹隆文)

小島えいゆ個展 風雷雲龍ズ漫画

会期:2017/04/04~2017/04/16

アートライフみつはし[京都府]

漫画家の小島えいゆに出会ったのは5年前のこと。彼は俵屋宗達の《風神雷神図屏風》から着想した巨大な屏風作品で個展を開催していた。その力強い線描、漫画家ならではの大胆な構図と画面構成、なにより画面からみなぎるパワーに圧倒されたことを覚えている。そして今回、5年ぶりとなる個展で小島が選んだ題材は、やはり俵屋宗達の《雲龍図屏風》だ。ストーリーは前回から繋がっており、タツノオトシゴから転生した龍に乗る風神と、瀧登りする鯉から転生した龍に乗る雷神が再び対決するまでを、四曲一隻の屏風3点で表現している。しかも本展では会期前半を公開制作とし、観客に制作過程を見せるサービスぶりだ。小島によると、この屏風シリーズは3部作として構想しており、本作は第2部に当たる。こうなったらぜひ完結編まで漕ぎ着けてほしい。また5年後になるかも知れないが、次回の個展を今から楽しみにしている。そして、第1部から第3部までの全作品を一挙に公開する機会を設けてもらえるとありがたい。

2017/04/05(水)(小吹隆文)

ヨーロピアン・モード

会期:2017/03/11~2017/05/16

文化学園服飾博物館[東京都]

宮廷が流行を生み出した18世紀後半、ロココの時代から若者や大衆が流行の担い手となった20世紀末まで、約250年に及ぶ欧米発信の女性モードの歴史をコレクションで概観する毎年恒例の展覧会。スタイルの変遷と、それらを取り巻く社会的背景も解説され、ファッション、デザインを学ぶ者にとってよい入門展示となっている。そして今年の特集は「黒のドレス」。19世紀後期以降、黒いドレスは喪服としてのみならず、流行として受け入れられるようになった。展示解説によればその理由は、1861年に英国ヴィクトリア女王の夫君アルバート公が亡くなり、女王が長い服喪期間に黒いドレスを着続けていたことと、同時期に黒色の合成染料アニリンブラックが発見され色落ちしにくい黒が安価に染められるようになったためだという。ドレスのほか、扇子やバッグ、帽子などの小物類、ジェットなどを使った黒いアクセサリーも展示されている。黒色に限らず、化学産業の発展による合成染料の普及、機械化の進展が、モードに与えた影響が見て取れる。例年であれば特集展示は本展示と別に独立したコーナーが設けられているが、今回の黒いドレスはモード史の文脈のなかで紹介されている。西洋モードの歴史はスタイルの変遷で語られることが一般的だと思うが、技術的視点から色彩を見るのも興味深い。[新川徳彦]


会場風景

2017/04/06(木)(SYNK)

おとろえぬ情熱、走る筆。ピエール・アレシンスキー展

会期:2017/01/28~2017/04/09

国立国際美術館[大阪府]

90歳を迎え現役で活躍するベルギーの画家、ピエール・アレシンスキー(1927年ブリュッセル生まれ)の足跡をたどる回顧展。1940年代から現在までの作品、約80点が展示された。アレシンスキーは、1948 年に結成された前衛的な芸術家集団コブラ(CoBrA:コペンハーゲン、ブリュッセル、アムステルダムの頭の文字をとって命名)に参加後、本格的に活動を始める。その後、日本の前衛書家 森田子龍と交流して、床に置いた紙に墨で力強く自由なストロークで書くスタイルに影響を受けた。本展では、墨、唐紙、拓本といった東洋の素材と技法を用いつつ、自由奔放な筆による即興的な線描表現を見ることができる。さらには、コミックの影響を受けてコマ割りにした画面の物語性ある表現、版画技法を活用しつつ新しい技法をも併用して駆使する妙、アクリル絵の具を採用することで生まれる軽快さと鮮やかな色彩性(油彩とは異なる)など、魅力がいっぱい。底流にあるのは紛れもなく西洋のエッセンスなのだが、東洋のそれも昇華・融合した彼の作品群は、もはやなんらの枠や境界に捉われないなにものかを獲得している。齢を重ねて成長し続ける芸術家の旺盛な好奇心としなやかな感受性に魅了された。[竹内有子]

2017/04/06(木)(SYNK)

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クラーナハ展──500年後の誘惑

会期:2017/01/28~2017/04/16

国立国際美術館[大阪府]

ドイツ・ルネサンスを代表する画家として知られる、ルカス・クラーナハ(父:1472-1553)の日本初の展覧会。「宮廷画家」、「肖像画家」、「版画家」として、工房での量産体制を築きビジネスに長けていたクラーナハの各画業に加え、独特の「裸体表現」が後世に与えた影響、男性を誘惑する「女性」のイメージ、マルティン・ルターの宗教改革に深く関わりながら生み出された作品群、という6つの多様な切り口から91点の作品を展覧する。見どころはなんといっても、ウィーン美術史美術館所蔵の《ホロフェルネスの首を持つユディト》(1525/30頃)。同作にみる、ユディトの肌の輝くような質感、女性イメージの持つ力、豪華な衣服とジュエリーの素材感までも写し取る写実的描写は、修復に3年かかったという見事な復元技術の賜物。単に大回顧展として終わらせない本展の工夫は、近代日本におけるクラーナハの受容に始まり、西洋20世紀におけるピカソやデュシャン、さらには現代の川田喜久治と森村泰昌に渡るオマージュの系譜も示しているところ。それにしても、出展作《ヴィーナス》(1532)に代表されるような、クラーナハ作品のビジュアル・イメージは強烈で何とも忘れ難く、絵画作品を見る歓びを教えてくれる。[竹内有子]

2017/04/06(木)(SYNK)

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2017年04月15日号の
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