artscapeレビュー

2011年03月15日号のレビュー/プレビュー

MESH環境デザインセミナー第78回「建築とインテリアの関係性について」

会期:2011/02/11

東桜会館[名古屋]

1998年に名古屋で始まり、もう70回以上も開催しているMESH環境デザインセミナーに呼ばれた。そこで「建築とインテリアの関係性について」と題して、最近、飯島直樹や森田恭通の論考を書いたので、これをベースとしながら、二つの分野の類似と差異について語った。その後、第二部として、加藤和雄、堀越哲美、村上心らとともに鼎談を行なった。ゼロ年代において、若手建築家がすぐれたインテリアデザインを発表するようになったことは、インテリアの業界にとっても無視できないらしい。基本的にはインテリア関係の講師を招くが、建築家もときどきレクチャーしていたという。しかしながら、建築とインテリアの関係を議論したのは初めてらしい。実際、講演の準備をしながら、改めてインテリアデザインの現代史を知るための基本的な文献、あるいは情報がほとんどないことに気づいた。業界人にとっては常識のことも、部外者にはアクセスできる文字情報になっておらず、きわめて参入障壁が高いのである。もっとも、内田繁がこうした本を準備しているときく。建築とインテリアを横断する議論が本格的に開始されるのは、これからだろう。

2011/02/11(金)(五十嵐太郎)

曽根裕 展──Perfect Moment

会期:2011/01/15~2011/03/27

東京オペラシティアートギャラリー ギャラリー1&2[東京都]

L字型のギャラリーを大きく2つに分けて展示している。ひとつは大理石彫刻を中心とする新作インスタレーション、もうひとつは90年代の映像だ。大理石彫刻は、マンハッタン島や観覧車などおよそ彫刻にならないものばかりをモチーフに選んでいる。マンハッタン島はビルの凸凹や通りの溝まで克明に彫られているのだが、それがあたかも山のてっぺんにあるかのように急峻な崖に囲まれて屹立しているのだ。つまり台座の上のマンハッタン。観覧車は複雑に組まれた鉄骨をどのように大理石で彫るかが問題だが、梁の1本1本まで彫るのは不可能なので、浮き彫り状に処理していた。いちばん感心したのは「木のあいだの光」シリーズで、雪山の木々のあいだから射す光を放射状やプリズム形に彫刻しているのだ。光はふつう彫らないでしょ。そんな大理石彫刻を観葉植物のあいだから見え隠れするように並べている。すでにメゾンエルメスでのクリスタル彫刻を見ていたので驚きはなかったけど、これはこれで満足のいく作品だった。だが、もう一方のギャラリーでやっていたのは、もう何度も見た《ナイト・バス》と《バースデイ・パーティ》だったので、結局見ごたえがあったのは前半の7点ほどの大理石彫刻だけ。先日見た高嶺展とは逆に「なにこれだけ?」って感じで、ものたりなさの残る展示であった。

2011/02/11(金)(村田真)

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project N 44 吉田夏奈

会期:2011/01/15~2011/03/27

東京オペラシティアートギャラリー4F コリドール[東京都]

40メートルくらいありそうな壁面にA1程度のパネル100枚以上をつなぎ、クレヨンなどで山岳風景を描いている。北アルプスの山々が基本だが、ヨセミテのハーフドームみたいな景観も混じっていて、どうやら世界中の山々をつなぎ合わせたものらしい。色はところどころにしか塗られておらず、大半は輪郭のみなので未完成なのかもしれないが、これはこれで微視的な岩々の連なりが大きな山全体を構成しているダイナミズムが感じられて悪くない。ちなみに、吉田が絵画制作に打ち込むきっかけとなったのは曽根裕による秋吉台でのワークショップだったというから、曽根展の階上で行なわれる今回の個展は恩返しになるか。

2011/02/11(金)(村田真)

都市に潜む

会期:2011/02/05~2011/02/13

渋谷駅地下コンコース[東京都]

地下鉄副都心線の開業と、工事中の渋谷ヒカリエの宣伝を兼ねたのではないかと推察されるイベント「シブヤ1000」、のオマケみたいな現代美術展。「シブヤ1000」とは渋谷界隈で撮った顔写真やイラストなど1000人分を渋谷東口のコンコースに展示するもので、渋谷系のアホ面がずらりと並ぶ。それはいいんだけど、めざす「都市に潜む」展がどこでやってるのか見つからない。ほんとに都市に潜んでしまってるのか、と思ったら突き当たりの広場に(どこだ?)ありました。あったはいいけど、いろいろ規制がうるさいのか、壁にマスキングテープを貼ったり、柱に擬態したりしてほとんど目立たない。そんななか、スクール水着の少女たちが中2階から並んで飛び込もうとしている北川純の作品だけが、場違いながらノーテンキな無邪気さを放っていた。

2011/02/11(金)(村田真)

川俣正「フィールド・スケッチ」

会期:2011/02/04~2011/03/21

NADiff a/p/a/r/t[東京都]

川俣正は東京藝術大学美術学部在学中の1976年から数年にわたって、中古のカメラでスナップを撮影し、L判のサービスサイズにプリントするという試みを続けたことがあった。今回の展示はそのなかから選ばれた630枚の写真を15枚ごとのブロックに分けて、壁にモザイク状に展示している。かなり褪色が進んだり、染みが浮き出したりしているような写真もあり、チープなプリントに時の厚みを感じさせる奇妙な物質性が生じているのが興味深かった。
内容的には、例えば人間の顔のような特別な意味を持つ被写体は注意深く避けられている。これらの「フィールド・スケッチ」の成果は後になって「室内の壁や天井や何の変哲もない一角を写した『宙吊りの部屋』、街中で日常の何気ない物体を写した『ファウンド・オブジェクツ』、光、あるいは境界をモチーフに撮影された『反射と透過』」という3つのセクションに分類された。さらに時間の経過に従って、少しずつアングルを変えながら連続的に被写体を撮影していく、シークエンスの手法が多用されているところにも特徴がある。つまり、20歳代前半のこの時期に、川俣はすでに後年のインスタレーション作品につながる対象のシステム化、多層化、連続性の導入などの要素を作品に取り入れつつあったということだろう。
逆にいえば、彼の写真という表現メディアの使い方は、ロジカルかつ抑制的なもので、あまり揺らぎやふくらみを感じることができない。ただそのなかに一枚だけ、差し伸ばした自分の手を上から撮影した写真があって、その妙に生々しいたたずまいがなぜか強く目に残った。

2011/02/12(土)(飯沢耕太郎)

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