artscapeレビュー

2011年03月15日号のレビュー/プレビュー

デジタル・クリエイティブ・カンファレンス──テクノロジーとアート、その未来を考える

会期:2011/02/12~2011/02/13

アカデミーヒルズ49(六本木ヒルズ森タワー)[東京都]

専門ではないが、ブリティッシュ・カウンシルが企画したデジタル系のシンポジウムに参加した。ビル・トンプソンの講演に続き、ドリュー・ヘメント、南條史生、五十嵐がコメントを行ない、司会は大西若人がつとめた。前日のインテリアのイベントに続き、アウェイな場だったが、普段使わない脳を使い、頭の体操になる。デジタル技術を用い、誰もが表現に参入しやすくなることで、すべてがアート化するという南條の発言が注目を集めた。筆者は、ある意味でもっとも遅れたテクノロジーの建築の立場から(今でも木造や煉瓦造の家に住み、二千年前のローマ建築や千年前のゴシック大聖堂を簡単に超える建築をつくるのは容易ではない)、現在のデジタル技術がどのような影響を与えているかを語った。

2011/02/12(土)(五十嵐太郎)

女子美スタイル☆最前線 JOSHIBI Degree Show 2010

会期:2011/02/11~2011/02/14

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

女子美の卒業・修了制作から選抜された123人の展示。絵画、彫刻、デザイン、工芸、メディアアートと多岐にわたるのでとりとめがなく、目に止まった作品はわずかしかない。織物を織るように絵を描く福井裕子、夜景を流麗なタッチで描写した市川陽子、そして、高さ40センチほどの細長いガラスの角柱を1本立てただけの伊藤沙由美くらい。こういうシチュエーションでは「パッと見」が重要なのだ。ところで、女子美は男子しか美術学校に入れなかった100年以上も前、女子にも門戸を開こうというんで開学した学校だけど、いまやどこの美大も女子学生が大半を占めるようになった。そこで女子美のとるべき選択肢は、もう役割は終わったと独自性を放棄する(つまり男子を受け入れていく)か、逆に女子学生だけというこれまでの蓄積を踏まえてイニシアティブをとっていくかだ。いま見ていると、どうも前者の道を歩んでいるように思えるのだが、もし「女子美スタイル」というものを本気で標榜するならば、後者の路線を開拓していく必要があるだろう。ま、どうでもいいけど。

2011/02/12(土)(村田真)

京都市立芸術大学作品展

会期:2011/02/09~2011/02/13

京都市美術館、京都市立芸術大学構内[京都府]

芸大美術学部の1回生から4回生までと、修士課程の全員が出品する二つの会場での恒例の作品展。京都市美術館の会場で特に凝視したのは個人的興味のせいが大きいが大学院2回生の岡田小百合の《千手観音像模写》をはじめとする保存修復の学生たちの模写作品。詳しくは知らないが、過去の絵画資料を忠実に写し取ったり復元するという仕事には、原本が描かれた当時の技法や画材の研究調査は当然ながら、画力に加え相当な想像力も必要だろうといつも考える。そのような技法や学問を大学で学ぶ人たちの成果を見ることができる機会自体貴重で興味深い。その後足を運んだ学内展示は、全体的にややパワー不足の印象も否めなかったが、造形構想修士2回生の中島彩の日常を綴ったテキストと写真の展示は「その後」が気になっていまも引き摺られている。

2011/02/12(土)(酒井千穂)

京都オープンスタジオ桂

会期:2011/02/11~2011/02/13

うんとこスタジオ、桂スタジオ[京都府]

芸大を出て、桂にある二つの共同スタジオが開催するオープンスタジオへ足を運んだ。駅からも近いうんとこスタジオでは、鈴木宏樹、谷澤紗和子と、カレーのケータリングチーム「森林食堂」が三日間だけの「うんりん食堂」を開店。作品展示もされていたのだが、どちらかというと狭い空間にテーブルやカウンターが設置されたスタジオはすっかり飲食店の雰囲気。和気あいあいとした楽し気な雰囲気に包まれ、賑わってもいたが、この夜はちょうど音楽のライブも開催されるとのことで、仲間内が集う場でもあったのかもしれない。うっかり足を踏み入れてしまったアウェーのような居心地の悪さも覚え気後れしてしまったのも事実だ。一方、対照的に日頃の制作現場に来場者を迎えいれる作家たちの緊張感が漂っていた桂スタジオ。「ほぼ日作品大賞」でひびのこずえ賞を受賞した東明は、ペンギンのパラシュートをミシンで制作しながら、実演、丁寧に説明してくれた。また、昨年の東京都現代美術館の「MOTアニュアル2010:装飾」や、大阪での個展で発表されたものとはまた異なるイメージの作品を制作中の水田寛からも、作品を前にしてその制作スタンスや意図についてじっくり聞くことができた。時間もそんなになかったので、今回実際に話せたのは二人だけだったのだが、ギャラリーなどの発表の場では知り得ないアーティストの一面を垣間みることがでたり、その魅力に触れることができる点でもオープンスタジオの価値は大きいと改めて感じた。方法論は各々だが、今回は「オープン」のあり方についても考えさせられた。

2011/02/12(土)(酒井千穂)

星玄人「大阪」

会期:2011/02/11~2011/02/20

サードディストリクトギャラリー[東京都]

星玄人はサードディストリクトギャラリーのメンバーのひとり。これまで同ギャラリーで、新宿界隈を中心に撮影したスナップショットを展示してきたが、今回は大阪という新たなテーマに取り組んだ。2010年11月、12月、11年1月に3回足を運び、集中して撮影した成果だという。
もともと彼のスナップは、撮影する自分を透明化することなく積極的に被写体の前に晒し、火花が散るような視線の交錯を写真に刻みつける力業である。この「大阪」でもそのやり方は貫かれているが、被写体との距離感が微妙に違っているように感じる。やや引き気味に、あらかじめ写真のフレームを舞台として設定し、そこに一癖も二癖もある大阪の人物たちを呼び込むようにして撮影しているのだ。こちらから相手の領域を侵していくような緊張感や不穏な気配は薄らいだものの、逆に人物たちが勝手気ままにポーズを決め、自己主張している面白さが出てきた。大阪人のなかに色濃くある演劇的な資質を、巧みな舞台設定と隅々までシャープに、等価に照らし出すストロボ光の効果で引き出すことに成功しているのだ。会場には西田佐知子の昭和歌謡が流れ、大阪のあの独特の極彩色の空間に、さらに情緒たっぷりの彩りを添えていた。
「大阪」はまだ撮り終えたわけではない。だが、この手法は他の都市でも活かすことができそうだ。星自身も充分に自覚しているようだが、昭和の匂いがする都市空間やエネルギッシュだが哀感が漂う人物たちは、いまやどんどん消えつつある。「まだ間に合ううちに」、その姿を記録に留めておくことが必要になってきている。

2011/02/13(日)(飯沢耕太郎)

2011年03月15日号の
artscapeレビュー